2019年05月21日

ケニー・バレル ブルージン・アラウンド

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ケニー・バレル/ブルージン・アラウンド


何日か前の事ですが、とても悲しくショックなニュースを目にしました。

「ケニー・バレルが、経済的に非常に苦しい状態にあるから助けてほしい」

という、ケニー・バレル夫人の書き込みが、ツイッターに流れてたんです。

「えぇ!?」

と思いました。

だって、ケニー・バレルといえば50年代から常に第一線で活躍する、その頃からジャズを代表する素晴らしいギタリストで、大きなコンサートからライヴハウスまで、出演依頼が絶えた事なんか恐らくなくて、その功績によって音楽学校の教授としても安定した活動を続けてきた。

で、ジャズマンっていえばとかく酒飲みで女にだらしなくて、喧嘩とかギャンブルとか、そういう社会人としてはアレなエピソードに事欠かなかったりするんですが、ケニー・バレルという人は非常に常識人で真面目な人だったから、多くの仲間が若いうちから破滅して亡くなって行くのにしっかりと節制を守り、だから80代になっても元気に演奏することが出来て、周囲からの信頼も厚いという話も聞いておりました。


バレルは2019年現在87歳なんですが、実は数年前に事故に遭って、現在はその後遺症と懸命に戦っているそうです。

これによって演奏活動もままならない。そんな時詐欺に遭い、巨額の負債を抱えてしまっての、奥様の必死のSOSだったんですね。

幸いにして寄付は目標金額を達成し、とりあえずは夫婦が当面生活するだけのお金と治療のための資金の心配はなくなったということなんですが・・・。

いや、ここまで書いて何とも悲しくてやるせない。

ジャズという音楽に多大な功績を残した偉大なギタリストが、いや、そんなことよりも、アタシだって彼のギター・プレイにはたくさん癒されたし、興奮させられたし、何よりも彼のプレイは「カッコイイ男ってのはこうなんだ」っていう粋をたくさん教えてくれました。世間の多くの人にそんぐらいの大きな感動を与えるために、自らを常に律して、ステージでは特上のサービス精神を忘れず、真摯に生きてきた一人のミュージシャンが、何でこんな、仕打ちにも似た境遇に置かれなきゃならんのか。

とまぁアタシは色々考えたのですが、アタシには出来る事しかできません。そんなアタシに出来る事といえば、ケニー・バレルという本当にカッコいいジャズ・ギタリストの良さを語って、一人でも多くの人にこの人の音楽を聴いてもらうこと。たとえばCDが1枚売れて、どれぐらいのお金が彼の元へ行くのかは分かりませんが、誇り高い演奏家です。演奏活動が出来ない今、一番の支援(精神的な意味も含め)は、音源が売れる事だと思いますので、今日はケニー・バレルという人の音楽と作品を紹介します。


ケニー・バレルは1931年にミシガン州デトロイトで生まれました。

デトロイトという街は、アメリカの自動車都市と呼ばれる工業の街で、戦前から自動車工場の職を求めて多くの黒人労働者が全国、特にアメリカ南部から集まった場所であります。

後にモータウンというソウルの巨大レーベルが生まれ、華やかな時代を作る前から、デトロイトはブルースやR&B、そしてジャズといった黒人大衆音楽の独自の文化が花開き盛り上がっていた街。そんな街で生まれ育ったバレルは、若い頃から体にブルースを染み込ませ、かつそれをジャズとして非常に洗練されたスタイルで弾くことが出来、若干25歳でニューヨークに進出。そのままブルーノート・レコードで初リーダー作をレコーディングし、瞬く間にシーンのトップへと上り詰めます。

実際に50年代にレコーディングされたバレルのアルバムを聴くと、その当時形成された基本的なスタイルの「ジャズ」つまりはモダン・ジャズ/ハード・バップという、アタシ達が「ジャズ」と聞いて「あぁ、こんな感じ」とすぐに思い浮かべるあのサウンドにピッタリと寄り添っている、とても堅実で、決して派手に弾き倒して他の楽器の邪魔をしないプレイなんです。

こう書くとケニー・バレルは控え目で、いわゆる”薄い”ギタリストなのかなと思われそうですがさにあらず。どんなに洗練されたサウンドの中で弾こうが、共演者の演奏が派手目な感じだろうが、この人のギターから出て来る音はその穏やかな一音にすら力強い存在感が、ブルースの深いコクと共にみなぎって、全てを包み込む包容力でダンディかつセクシーな音を響かせます。

そうなんです、アタシも下手くそながらギター弾きのはしくれとして、気になるギターの演奏というのは、やっぱり弾き方とかインパクトとかそっちが先立って耳をすましてしまいがちなんですが、バレルのギターに関してはもうただこの人の音がトロンと鳴るだけで心が持って行かれてしまって、その卓越した”聴かせる技術”の細かい所は未だに僅かでも盗む事は出来ずに今に至ります。

実際にお店に立っていて、ジャズを聴く色んなお客さんと話をしていた時も「ケニー・バレルかっこいいよね!」と興奮気味に語る方は、実は圧倒的にギターを全く弾かない人が多かったんです。

これは本当に凄い事ですよね。







ブルージン・アラウンド

【パーソネル】
ケニー・バレル(g)
エディー・バート(tb,C)
レオ・ライト(as,E〜G)
イリノイ・ジャケー(ts,@〜BDH)
ジャック・マクダフ(org,E〜G)
ハンク・ジョーンズ(p,@〜BDH)
ジョージ・デュヴィヴィエ(b,C)
メイジャー・ホリー(b,@〜BDH)
オシー・ジョンソン(ds,@A)
ルイ・ヘイズ(ds,C)
ジミー・クロフォード(ds,BDH)
ジョー・デュークス(ds,E〜G)

【収録曲】
1.マンボ・ツイスト
2.ザ・スイッチ
3.ザ・スクイーズ
4.ブルージン・アラウンド
5.バイ・アンド・バイ
6.モーテン・スウィング
7.ピープル・ウィル・セイ・ウィア・イン・ラヴ
8.ワン・ミント・ジュレップ
9.ムード・インディゴ

(録音:1961年11月21日,29日、1962年3月6日、1962年4月30日)


リーダー作もサイドマンとして参加しているアルバムもとても多く、また、どのアルバムも乱暴にジャズの正道を踏み外すことなく常に高いクオリティで聴かせるバレル。

有名なアルバムといえばやはり50年代のブルーノートでの傑作の数々や、ジョン・コルトレーンとの共演盤、或いはVerveやPrestigeといった有名ジャズ・レーベルでの諸作品になると思いますが、1960年代のColumbia音源を集めてからリリースされたアルバム『ブルージン・アラウンド』を今日はオススメとして紹介します。

このアルバムはレビューで派手に取り上げられるような事はあんまりないけど、昔からバレルの隠れ名盤としてファンからの評価が非常に高いアルバムなんですよ。

まずはメンバーが、超一流の実力派揃い。誰もが知る超有名プレイヤーで固めるんじゃなくて、イリノイ・ジャケーにジャック・マクダフといった”コテコテ”のブルース職人達と、ハンク・ジョーンズ、レオ・ライト、ジョージ・デュヴィヴィエ、メイジャー・ホリー、オシー・ジョンソン、ルイ・ヘイズといった、主役を引き立てながら演奏に品格とコクをもたらすことにかけてはもう何をか言わんやの名バイプレイヤー達がガッチリと固めた布陣は、野球で言えば山本浩二に衣笠が打ち、大下が走り、池谷が投げていた頃の赤ヘル軍団、広島東洋カープの如き燻し銀の味わいと(さっき広島ファンに訊いたから間違いない)、古武士集団のような風格と”仕事”の確実さを持った鉄壁のそれなのであります。

そしてバレルお得意のブルースをテーマにした楽曲の数々。全体的な雰囲気はバレルらしくダンディでとことん夜が香る実にムーディーな仕上がりなんですが、落ち着いた曲だけでなく、速いテンポの曲がところどころ良い感じに織り交ぜられているところにも、飽きさせず聴ける工夫が凝らせてあるのを感じます。

1曲目はラテン風味で、これがノリノリのナンバー。バレルのソロもジャケーの叔父貴のソロ共に弾きっぷり&吹きっぷりが、短いながらも爽快です。

以降、ミディアムでグイグイのせて、スローブルースやバラードで聴かせる実に気持ちいい展開が最後まで続きます。バレルが書き下ろしたオリジナルはどれも「ブルースわかっとる奴が作るジャズ」で、特に必殺のスローブルース『ザ・スクィーズ』なんかもう酒が弾むこと間違いない(さっき酒好きの奴に訊いたから間違いない)のですが、カヴァー曲も酒が弾みます。

デューク・エリントンの超有名スタンダード「ムード・インディゴ」では、バレルのしっとり軽やかに、撫でるように奏でられるコード・ストロークにとろけるソロ、イリノイ・ジャケーの叔父貴によるズ太い音で丁寧に吹かれるソロはもちろん「ズン」とひとつひとつの音を噛み締めるように弾くメイジャー・ホリーのベースがこれまた響く。

ベニー・モーテンの曲、というよりその跡を継いだカウント・ベイシーの演奏で有名になった『モーテン・スウィング』は、ミディアム・テンポの小気味良いリズムに、コードを「びゃーん!」とぶっこむジャック・マクダフのオルガンと、もっちりした音で吹きまくるレオ・ライトのアルト・サックスが実にワルくてカッコ良くて、その後に満を持して出て来るバレルのソロもまたオシャレな不良。

レイ・チャールズがクインシー・ジョーンズ楽団をバックにしてヒットさせた『ワン・ミント・ジュレップ』の、いい感じにバーボンが香るカバーも音数少なめでギターがよく歌っております(タイトルの語源は南部生まれのバーボン・ベースのカクテルから)ね~♪

腕利きを集めての豪華セッションならではのくつろいだ感じと程良い緊張感があるこのアルバム、いやほんとバレルのプレイには、楽しく聴かせるその音の隅々にまで美学が行き届いていて、音楽としての究極の男前を感じます。




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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:47| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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