2020年06月20日

阿部薫 19770916 @ AYLER, SAPPORO

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阿部薫/19770916 @ AYLER, SAPPORO
(doubtmusic)

仔細あってここのところずっと阿部薫を聴いておりました。

阿部薫に関しては、アタシがハタチそこらの頃に「音楽はとにかく刺激だ!頭をぐっちゃんぐっちゃんにしてくれるようなイカレた音楽くれ!!」となっていた時期(それは丁度フリージャズ覚えたての頃でした)確かに聴いて、確かに最初は「日本人でもこんな凄まじい怨念と破壊力に満ちたフリージャズ、しかも無伴奏のたったの1本のサックスで出来る人いたんだ!」と衝撃を受けて、それからはもうハマりまくって朝から晩まで聴き狂っていた時期があったのですが、聴いていくうちに、いや、多分最初から、その破壊力に満ちた演奏の裏側にある、えもいえぬ抒情とか即興で繰り出されるフレーズのメロディアスな美しさとか、演奏の、いや、無音の部分からすらもうわぁ〜んと迫ってくる狂おしさみたいなものに憑りつかれ、そりゃあもう一言ではとても言い尽くせない存在になって久しくあります。かれこれ四半世紀近く。

考えてみれば阿部薫はアタシに

「フリージャズつってもな、ただ滅茶苦茶のデタラメをやっていい訳じゃないんだ。どんなに自由に吹き散らかしても美しくなきゃダメなんだ」

という事を一番最初に教えてくれたアーティストだったかも知れません。

アルバムに関しては見かけたら買っていました。主に経済的な理由から全然追いついてはおりませんが、たとえどのアルバムも「ソロは大体似たような感じ」であろうが、不思議な事に阿部薫の演奏というのは”飽きる”という事がありませんでした。同じアルバムを何度聴いても良い意味で体が慣れない、だから聴く毎に受けた衝撃が一旦更新されて次に聴く時も初めて聴いた時のような「出てくる最初の音をドキドキしながら待っている」という状態になりました。これは本当に不思議ですがそうなんです。


彼のソロ・インプロヴィゼーションは、さっきも言ったようにどれも強烈な衝撃と、ゾッとするような音色の美しさ、そして即興で奏でられる調制の枠を大きく逸脱しているはずのメロディがどこまでも哀しくて美しい。

1970年代初頭から亡くなる直線の1978年の演奏まで、彼は一貫してそのスタイルでありますが、1970年代半ば以降演奏に更なる緊張感を醸す無音部の”間”が多くなります。

その”間”の凄味が味わえる音源の極北といえば、やはり1978年の「最後のツアー」での北海道での音源。

『ラスト・デイト』というアルバムがあって、このアルバムは実は最後に入ってるハーモニカでの演奏が凄いんですが、1曲目がアルト・サックスの演奏で、この演奏の途中にいきなり物凄く長い”間”があるんですよ。

ガーッ!と吹いて唐突に、多分3分以上あろうかと思う異様な無音。

これをアタシは「凄い・・・」と感じたんですね。無音であるということは音が鳴ってない状態なので、それが音楽的にどうこうという訳ではないはずなのに、その無音部の中に、彼が吹くアルト・サックスの、あの断片的なメロディの”あの感じ”の空気そのものが反響している、ような錯覚に陥ってしまったんです。

うん、阿部薫の音楽知らない人にとってみれば「コイツは何を言ってるんだ?」な話ではあろうかと思いますが、や、だからこそこの部分は阿部薫という人をまだ聴いた事ない人にとって物凄く大事な部分だと思いますんで、はい「そういう音楽なんだな」と思ってくだされば幸いです。ほんとにね、真剣にのめり込んで聴けば聴くほどそういう不思議な事がちょくちょく起こるんですよね。

さて、今『ラスト・デイト』の話が出ました。

このアルバムは、1978年の8月28日に彼の最後の演奏活動となった北海道ツアーにて録音されたもので、発掘されリリースされたのが1989年という、いわゆる未発表音源というやつでした。

そう、これこそが阿部薫の最後の演奏とずっと言われていた音源でしたが、それから14年後の2003年に『ラスト・デイト』の日の翌日に行われた室蘭でのレコーディングが『ラスト・レコーディング』としてリリースされ、コチラは20分足らずの短い演奏でしたが全編サックスを吹いていて、そのエモーショナルな内容に大変ド肝を抜かれた事を覚えています。

話をちょっと横道で整理します。

阿部薫は1978年9月9日に催眠剤の過剰摂取により亡くなっておりますが、その直前に行われた北海道ツアーは、8月27日に小樽、8月28日に札幌、29日に室蘭、そして最終日の30日に旭川という日程でありましたが、このうち旭川での正真正銘の最後の演奏が録音されることなく永遠にその場限りのものとなっております。


で、『ラスト・デイト』に書かれていたライナノーツで、アタシは気になる一文を見付けました。その内容は、実は阿部薫はこのラストツアーのおよそ1年前の1977年に北海道で演奏してて、その時札幌の『アイラー』というジャズ喫茶でライヴをしたと。で、78年に演奏した札幌の『街かど』というお店では、サックスの音が天上に反響してしまった事にちょっと納得が行かない様子で「アイラーの方が良かった、ツアーが終わったらまたアイラーでやるよ」と言って『アイラー』の主人もそのつもりだったが、結局旭川から戻ってきた阿部の疲労が激しかった様子だったのでライヴは行われなかった。という内容でした。

これを読んでアタシの中では当然、本人が”良かった”と言ってた『アイラー』での演奏が聴きたいという気持ちと、もし78年のラストツアーの最後に『アイラー』でのコンサートが行われていたらどうだったんだろうという二つの気持ちが膨らみました。

が、77年の『アイラー』での音源は、CDとしてリリースされてなかったんですね。

90年代から2000年代は、町田康・広田レオナ主演の映画『エンドレス・ワルツ』の影響もあって、にわかに阿部薫への注目が彼の演奏をリアルタイムで体験したことのない世代の人からも集まったことと、関係者の尽力によって様々なレーベルから彼の未発表ライヴがリリースされておりましたが、その中にも1977年札幌『アイラー』での演奏はありませんでしたので「あぁ、こりゃあもう永遠に幻だな、でもそういうのがあるのって何だか”らしい”な」と、想像の隙間にその幻をそっとしまいこんでおりました。



19770916 @ AYLER, SAPPORO
【パーソネル】
阿部薫(as-@AC,sopranino-B)

【収録曲】
1.solo improvisation 19770916-1 (alto)
2.solo improvisation 19770916-1 (alto)
3.solo improvisation 19770916-1 (sopranino)
4.solo improvisation 19770916-1 (alto)

(録音:1977年9月16日)




ところが「出た」んですね。その幻の音源が、何と演奏から43年後の2020年というほとんど半世紀に近い時を経て誰もが聴けるCDとしてリリースされたんです。

そういやちょっと前に「音源はどこかにあるけど色々事情があって埋もれてるはず」という話は聞いておりました。けどそれはもう関係者でも何でもない、単なる1ファンのアタシが”聞いた話”であって、過剰に期待したり、彼の音楽以外の事をあれこれ考えるのはやめようと思っておりました。

それだけにこのリリースは、ちょっと衝撃というよりも、リリースのニュースを聞いた瞬間に思考が吹っ飛んで狂喜しました。

単純に考えても、1977年の阿部薫といえばそれまでの悲哀と激情の凄まじい次元での炸裂というか、そういう演奏からあの独特の空間そのものを凝縮させるかのような”間”を多用した演奏に変化してゆく丁度その過程の演奏です。CDを聴く前に「どうなんだろうどうなんだろう」と、ワクワクしながらも緊張して、音が出てくる前から自分の感覚の妙な部分が研ぎ澄まされてゆく、つまり「阿部薫を聴く前に起こるいつもの不思議な感覚」があって、何故か「よし!」と声が出ましたが、何故なんだろうとか考えません。「そういうもんだ」と思った方が良いんです。

で、演奏です。

「ギュルル!!ギャギャギャギャギャギャギャギャーーー!!!!!!」と吐き出される最初の一発目の音から「あぁ、これ・・・」です。

良いとか悪いとかそういうのじゃなくて、人間の「本気」(よく言われるそれではなく、人間にある限界みたいなものを突破する程の気迫という意味です)。最初から最後まで、即興で繰り出されるフレーズから無音に至るまで、或いは演奏が終わってお客さんの拍手が鳴っているその場の空気中にまでそれがみなぎっている。30分ぐらいの演奏ですが、長いも短いもありません。凄まじい本気に圧倒されて息を呑んでいる間に音楽は遥か彼方に消え去って行ってしまいます。

冷静になって解説らしいことをすれば、全体にみなぎっている空気感は、初期の鋭く圧倒的なスタイルのそれ。でも、音とメロディの美しさは1970年代後半の、ただ”凄い”だけじゃなくて何かこう凄さを超越したヘヴィな陶酔に彩られております。

2曲目最初付近の無音部と、3曲目ソプラニーノの高音で奏でられる「風に吹かれて」のメロディなどは、やっぱり聴く人の意識を遠い所へかっさらって行く強力な”美”だなぁと思うのです。








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doubtmusicオフィシャルHP









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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
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