2020年07月19日

ジョン・コルトレーン スターダスト

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ジョン・コルトレーン/スターダスト
(Prestige/ユニバーサル)


命日の7月17日から8月末までを勝手に「大コルトレーン祭期間」として過ごしておる訳なんですが、では一体どんな風にコルトレーン祭をしているのかと言いますと、昼間は車の中でコルトレーンを聴きながら仕事をし、夜は家に帰ってゆっくりとレコードでコルトレーンを聴く、という事がほぼ毎日です。

で、昼間は仕事のテンションと能率を上げるために、割かし激しいコルトレーン、例えば60年代以降の主にImpulse!レーベルでの作品を聴くのですが、帰宅してからは心身共にヘロヘロになっておりますので、やっぱりバラード曲が聴きたくなる。

もちろん昼間からバラード聴いたり初期Prestige期のコルトレーンを聴いて

「あ〜、えぇのぅ〜♪」

となることもありますし、夜に最晩年の、もうぐっちゃんぐっちゃんにフリーなアルバムを聴いて内なる深淵に沈み込むのが心地良い時もありますが、そういう日は稀であります。

それこそコルトレーンといえば後期のフリージャズな演奏の凄さにヤラレ、そのまんまコルトトレーンを通じてジャズという音楽の泥沼に引きずり込まれてしまったアタシ。

あの衝撃の体験から、はや四半世紀が経とうとしておりますが、年齢と共に激しくヘヴィでむせるような刺激に満ちたコルトレーンに変わらず狂喜しながらも、そのえも言えぬ香気を漂わせながら切ない余韻を残して消えてゆくフレーズが心に優しく刺さるバラード演奏の素晴らしさが、年々染みるようになってきたなぁなんて思っております。


「コルトレーンの美しいバラード演奏」といえば、やはり未だに売れ続けているImpulse!の人気アルバム『バラード』が目立ちますが






今日はですね「コルトレーンのバラード中心のアルバムでは他にもこんな良いものがありますよ」という隠れバラード名盤を皆様にご紹介したいと思います。

Prestige盤『スターダスト』は、ファンの間では「初期バラードの名演を集めたアルバム」「プレスティッジ盤”バラード”」とも呼ばれ親しまれており、中には

「う〜ん、オレはどっちかっつうと最初からバラードアルバムとして作られた『バラード』よりも、このアルバムの方が自然体な感じがして好きだなぁ〜」

という人もおる程に、根強いファンを持つ作品でもあるのです。


時期的には『バラード』の録音が1961年と、このアルバムの3年後でありますから、個人的にはアタシもこのアルバムをコルトレーンの元祖バラード・アルバムとして推したい気持ちはとても強いです。


コルトレーンはソロ・デビュー後にPrestige→Atlantic→Impulse!と、レーベルを移籍しておりまして、どの時期が良いというよりも、それぞれに違った味わいの良さみたいなものがありますね。

で、このPrestige時代のコルトレーンの味わいの良さってのは何かというと、1950年代に隆盛を極めた、アタシ達がよく知る”渋くてオシャレでかっこいい”モダン・ジャズの枠組みの中でハイ・センスな個性を存分に発揮しているところにあると思います。

特に1958年のコルトレーンといえば、ジャズ史に輝く超個性セロニアス・モンクのバンドで腕を磨き、大きく成長を果たした直後の時期なんですね。だから演奏のフォーマットはオーソドックスなジャズでありながら、演奏のそこかしこに枠組みから溢れそうなエモーションが漂っている。そんなワクワクがこの時期の演奏にはある。後年の”コルトレーン・サウンド”と呼ばれるあの独特過ぎる荘厳さこそ芽生えてないものの、演奏家としての個性は既に出来上がっている感じがとてもします。


さて、そんなコルトレーンのバラードプレイには、どんなカッコ良さがあるのかというと、まずはその音色ですね。

コルトレーンはマイルス・デイヴィスのバンドに抜擢された頃から、特有のソリッドな音でもってフレーズを吹いておりました。

テナーサックスというのは、それまではどちらかというとそのズンとくる低音域を男らしく響かせるワイルドな吹き方というのが主流で、それがテナーの醍醐味と言われておった。例外としてレスター・ヤングという人がソフトな音色でよく伸びる中〜高音域も駆使した流麗な吹き方で活躍したんですが、この演奏法に憧れてマスターし、更に劇的に進化させたのがチャーリー・パーカーという人なんですね。

で、チャーリー・パーカーの楽器というのは、テナーよりも音域の高いアルト・サックスだった。

しかしその革新的なアドリブ奏法が余りにもカッコ良かったので、アルト吹きもテナー吹きも、みーんなチャーリー・パーカーの超絶テクニックで疾走する演奏法をそれぞれに真似したところからジャズにおけるサックス演奏の大革命と言っていい程の事態が50年代初め頃から起こります。

10代から20代前半の頃のコルトレーンはアルト・サックスを吹いており、当然のようにチャーリー・パーカーに影響を受けました。このパーカーからの影響が、”シーツ・オブ・サウンド”と呼ばれるコルトレーン独自の「小節の中に物凄いスピードで細かい音符を敷き詰めて行く」という技法の成立に大きく関わった事は想像に難しくありません。

同時にコルトレーンにはもう一人アルト・サックス奏者でジョニー・ホッジスというアイドルがおり、彼のプレイにも夢中になっておりました。

ホッジスはパーカーよりも年上でデューク・エリントン・オーケストラの花形アルト奏者として、スウィング・ジャズの時代を代表するソロイストの一人として人気を博した人であります。特にそのふくよかで艶のある音色で奏でられるバラード演奏はことごとく名演と言って良いぐらいの格別な深みがあり、それは奏法や演奏スタイルの古い/新しいを超越した孤高の響きを有するものであります。

コルトレーンのバラード・プレイは、そんなホッジスの孤高の”響き”から影響を多く受けたものでありましょう。

音色が硬質で、吹き方そのものもビブラートを極力抑えた、聴き方によってはぶっきらぼうに思えるようなものでありながら、コルトレーンのバラード・プレイには、何とも言えない音の豊かさがあります。聴いているだけで細かい事はどうでもよくて、ただその音の”響き”だけに包まれてあぁ気持ちいい、切ない、となってしまえるような豊かさ。これはもうコルトレーンにしか出せない味です。


スターダスト

【パーソネル】
ジョン・コルトレーン(ts)
ウィルバー・ハーディン(fln,@B)
フレディ・ハバード(tp,C)
レッド・ガーランド(p)
ポール・チェンバース(b)
ジミー・コブ(ds,@B)
アート・テイラー(ds,AC)
【収録曲】
1.スターダスト
2.タイム・アフター・タイム
3.ラヴ・ゼイ・ネイヴァー
4.ゼン・アイル・ビー・タイアード・オブ・ユー

(録音:@B1958年7月11日、AC1958年12月26日)


この『スターダスト』は、全4曲中3曲がバラードで、それこそコルトレーンの演奏の”豊かさ”に、夢見心地で浸らせてくれます。

コルトレーンの円熟すら感じさせるプレイはもちろん、どこまでも清楚でエレガント、宝石のようなピアノで引き立てるレッド・ガーランドがコルトレーンが吹くメロディ・ラインの美しさを引き立て、豊かな響きとリズムを刻んでいるだけなのに、まるでメロディーを歌っているようなポール・チェンバースのベースがコルトレーンの音色の”響き”の部分にピッタリと寄り添い、過不足なくサポートしていて、もうこの2人はこのPrestige時代、つまり1950年代のコルトレーンの良き相棒と言っていいぐらいに一心同体ですね。

そして、もう一方のホーン奏者としてコルトレーンを横から支えるのが、トランペットのフレディ・ハバードとフリューゲル・ホルンのウィルバー・ハーディン。

後にモダンジャズを代表するトランぺッターの一人として、リー・モーガンやドナルド・バードと人気を競った実力派フレディ・ハバードは、まだこの頃は無名に近い若手であり、参加している1曲『ゼン・アイル・ビー・タイアード・オブ・ユー』では、最後の方で丁寧に吹いていて、堅実な締め括りのソロで聴かせますが、個人的にはやはりコルトレーンとはプライベートでも仲が良かったというウィルバー・ハーディンのフリューゲル・ホルンのプレイが、コルトレーンと阿吽の呼吸で引き立て合っているように感じられます。

その”響き”の中に豊かな奥行きをどこまでも感じさせるコルトレーンのテナーソロの後に、トランペットよりも柔らかなフリューゲル・ホルンの音で、やや音数を抑えながらささやくような歌心で全体の空気感をさり気なく香る上質なものに仕立てる、その役割をハーディンのプレイが担っておりますね。単体で聴くと弱いぐらいの本当に優しいアドリブラインですが、例えばタイトル曲の『スターダスト』では、コルトレーンのアドリブの余韻を演奏全体にじわりと馴染ませるような不思議な効果をプラスしているように思えて、聴く度にじんわりとその隠し味的な良さに心打たれるのです。

モダン・ジャズの職人的な名手達と、そこから少しだけ個性が飛び出たコルトレーンとのバランスが程良くて、それゆえに噛めば噛むほど上質な味わいが拡がる作品ですねぇ、しみじみと大好きです。











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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』


サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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posted by サウンズパル at 21:07| Comment(0) | 大コルトレーン祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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