2020年08月02日

ジョン・コルトレーン スタンダード・コルトレーン

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ジョン・コルトレーン/スタンダード・コルトレーン
(Prestige/ユニバーサル)

本日も初期、Prestige時代のコルトレーンです。

というよりもですね、前回ウィルバー・ハーディンの『メインストリーム・ジャズ1958』、前々回『スターダスト』の事について書いて

「あ〜、何だかウィルバー・ハーディンと一緒にやっているコルトレーンっていいな〜、もうちょっと聴き込んで書いてみたいな〜」

と思ったんですね。

人によってはハーディンの柔らかなフリューゲル・ホルンによるオーソドックスなプレイ・スタイルは生ぬるく凡庸で、意欲に燃えるコルトレーンの演奏とは今ひとつ合わないと思う方もいらっしゃると思います。

確かにハーディンはコルトレーンや地元デトロイト仲間達からの要望でニューヨークに出て来たものの、その後パッとせず、2年そこらで音楽シーンから消えてしまう訳で、そのプレイ自体もキラ星の如く輝く他のプレイヤー達に比べると確かに華のようなものは感じられないといえば感じられない。「コルトレーンはいいんだけどさ、このラッパがどうにも緊張感に欠けるんだよね」と言われたら確かにそれはそーかも知れない、えぇ、そうだと思いますとしか言えないのもまた事実ではあります。

しかしですね、アタシはやっぱりハーディンの、緩いところもそんなに上手くないところも含めて好きなんです。

あの妙な哀しみに満ち溢れたフリューゲル・ホルンの音が「ふわ...あ〜...」と鳴っただけで、胸に何かこうヒリッとする情感みたいなものが拡がってたまらなくなる。

あぁ、いけない。気持ちがすっかりセンチメンタル・モードになってしまいましたわ。という訳で、本日のコルトレーンは、1958年録音のコルトレーン&ハーディン&ガーランド&チェンバース、そしてジミー・コブによる『スタンダード・コルトレーン』であります。

はい、何でわざわざこうやってメンバー全員の名前を書いたかというと、このアルバムはコルトレーンとハーディンだけじゃなく、バックのガーランド・トリオの演奏もまた素晴らしいからみんなー注目(耳)してー!と思ったからなんですよ。えぇ。

この年、コルトレーンはデビュー時からの付き合いだったPrestigeとの契約を終えます。

何度も言っておりますが、原因はPrestigeレーベルはアーティストへの待遇が悪く、レコーディング時に渡すギャラだけをテキトーに支払い、あとはそれっきり。レコーディングもカネがかかるからとスタジオでじっくり曲作りとかそういうことはさせずにほとんど1発録りで何テイクみたいな感じだったようであり、先輩のマイルス・デイヴィスもレーベルのその姿勢にはすっかりおかんむりで

「ふごー!メジャーレーベルのコロムビアと契約するから残った契約分のレコーディング終わらせてとっとと移籍する!スタジオ手配しやがれ!!」

となって、そのたった2日間のうちに行った契約消化レコーディングを『クッキン』『リラクシン』『ワーキン』『スティーミン』という4枚の素晴らしいアルバムにするという偉業を成し遂げております。

で、その時マイルス・バンドのメンバーとして参加しておったコルトレーンも

「あー、オレもいつかメジャーから声がかかるぐらい有名になったらこういう風に出来るんだべかー」

と、ぼんやり考えておったのかどうかは分かりません。

が、それから1年もしないうちにコルトレーンはPrestigeからソロ・アーティストとしてデビュー。

ソロ・アルバムとは別に何だかよくわからないセッションみたいなレコーディングにもたくさん声がかかる売れっ子にもなります。

その間、親分だったマイルスのバンドを色々あって去ることとなり、失意とクスリのヘロヘロで呆然としておった所をセロニアス・モンクに拾われて、音楽家としても人間としてもめまぐるしい成長を遂げたコルトレーンは、ソロ・アーティストとして「よし、いけるぞ!」とも思ったんでしょう。Prestigeではマイルス・バンド時代からもう一心同体ともいえるぐらい”ツーカー”の仲になったレッド・ガーランドやポール・チェンバースと共に素晴らしく意欲に燃えたかっこいいアルバムを多く録音します。

が、Prestigeはレコーディングの多くをリアルタイムで発売しませんでした。

どういう事情があったかは分かりませんが、レコーディングしたテープのほとんどはレコードとなることなく倉庫に放置。マトモにリリースされたのは、デビュー作の『コルトレーン』と『トレーニング・イン』ぐらいのもんだったんじゃなかろうか(しかも『トレーニング・イン』に関しては”レッド・ガーランド・トリオ・ウィズ・コルトレーン”として企画録音されたセッション)?

そういう境遇にコルトレーンの不満は徐々に積もったことでしょう。そして1957年9月、ひょんなことから行われたブルーノートでのセッションで、コルトレーンは衝撃を受けます。

何と、ブルーノートはコルトレーンに「1枚の作品」としてレコーディング・メンバーの人選から選曲からスタジオの使用その他細かい所に至るまで全てを「君がやりやいよーにやっていいからね♪」と自由に決めさせ、それについての口出しを一切しませんでした。

はい、そうやって出来上がったのがおなじみの『ブルー・トレイン』でありますね♪



これが決定的になったのかどうかは分かりませんが、とにかくコルトレーンは復帰したマイルス・バンドでのツアーその他で忙しい合間を縫ってPrestigeでのレコーディングも淡々としかしペースアップしてこなしていきます。

そして遂に1958年7月にはPrestigeとの決別を決意。その結果「年内に全てのレコーディング契約を消化して移籍する!」として、7月と12月にマイルスのようなマラソン・セッションをする事を取り決めます。




スタンダード・コルトレーン (RVGリマスター)

【パーソネル】
ジョン・コルトレーン(ts)
ウィルバー・ハーディン
レッド・ガーランド(p)
ポール・チェンバース(b)
ジミー・コブ(ds)


【収録曲】
1.ドント・テイク・ユア・ラヴ・フロム・ミー
2.アイル・ゲット・バイ
3.スプリング・イズ・ヒア
4.インヴィテーション

(録音:1958年7月11日)



2日間2回のセッションで13曲のレコーディングが完了し、これでアルバム3枚分ということになってコルトレーンは晴れてPrestigeとの契約を満了に持ち込むことができました。

このセッションの音源も、コルトレーンがImpulse!に移籍した後の1960年以降にようやくリリースされて、あれまぁという感じなのですが、ひとまず1962年にコルトレーンのPrestigeラスト・セッション第一弾としてリリースされたのが本作『スタンダード・コルトレーン』であります。

「スタンダード」とはいえ、当時有名だった曲といえばフランク・シナトラやジュリー・ロンドンといった人気歌手が歌っていた『ドント・テイク・ユア・ラヴ・フロム・ミー』ぐらいで『スプリング・イズ・ヒア』や『インヴィテーション』といった曲は、本盤でコルトレーンが演奏した事によって知名度が上がってカバーされるようになったという、地味に画期的なことをやっておるアルバムなんです。


さて、このアルバムですが、全て同一セッション曲で固められていて、メンバーも最初から最後まで一緒です。

バラードとややアップテンポの曲が丁度良い塩梅で入り混じるバランスの良い構成の中で、それぞれのメンバーが持ち味を発揮しており、全体を通してとても上質な味わいがありますね。もちろんこの上質さは『スターダスト』にも同じくマラソン・セッション兄弟盤の『バイーア』にも共通しますが、同一セッションでサウンドに統一感がある本作に格別の良さアタシは感じております。

コルトレーンの表現力が、この時期最初のピークに達しているという事は、見事なバラードの1曲目『ドント・テイク・ユア・ラヴ・フロム・ミー』からもうハッキリと分かります。ヴィブラートを抑えた独特の吹き方は、下手をすればそっけないフレーズになってしまいそうなのですが、コルトレーンは豊かな音を繊細に鳴らしながら、アドリブで”うた”を丁寧に膨らませておりますね。

同じくバラードの『インヴィテーション』でもコルトレーンの音はひたすら豊かで、そのフレーズは繊細な彫刻のようであり、その繊細さはミディアム・テンポの『アイル・ゲット・バイ』『スプリング・イズ・ヒア』でも発揮されていて、アドリブの速いフレーズも機械的ではなくその奥底からしっかりとした感情が伝わってきて気持ちが良い。

で、このアルバムにおけるコルトレーンの豊かで繊細な感情表現、これは個人的にハーディンの柔らかなフリューゲル・ホルンとエレガントなガーランドのピアノ、力強くもよく歌うポール・チェンバースのベース、そして派手な”ぶっこみ”を一切せず、知的で冷静な躍動感に溢れるジミー・コブのドラムという、それぞれのメンバーの”優しさ持ち寄り型”の個性が合わさった結果かなぁと思って聴いてます。

たとえばImpulse!時代のどこまでもディープで聴く人を深淵な世界へと誘ってくれる傑作群に比べて、この時代のコルトレーン、特にハーディンが参加しているアルバムにはどこか安心できる”脇の甘さ”みたいなのがあって、その甘さにはポジティヴな中毒性があるんだよな〜と思いながら、完璧な歌心に満ち溢れたコルトレーンのソロの後に、儚い空気をまといながら遠慮がちに出てくるハーディンのフリューゲル・ホルンの音に「いいなぁ・・・」となっております。いいなぁ・・・。


























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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』


サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 18:58| Comment(0) | 大コルトレーン祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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