2020年08月15日

ジョン・コルトレーン ブルー・ワールド

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ジョン・コルトレーン/ブルー・ワールド〜ザ・ロスト・サウンドトラック
(Impulse!/ユニバーサル)


毎年この時期はコルトレーンを聴きまくって、それこそ何十回何百回聴いている作品や演奏にも新しい感動を覚えたり、えぇ、夏という苦手な季節もコルトレーンを聴いて何とか生きられる。それぐらいに思っております。

さて、そんな『大コルトレーン祭』をもうかれこれ気付いたら15年以上もやっております。

コルトレーンはもちろん1967年に亡くなった人でありますので、当然聴いているのは昔のアルバムということになるんですが、実は未発表のスタジオ音源やライヴ音源などが「新作」としてリリースされる事があります。

今日はそんな「新作」としてリリースされたコルトレーンのアルバム『ブルー・ワールド〜ザ・ロスト・サウンドトラック』をご紹介します。

何と、発売されたのは2019年、つまり、今この原稿を書いている2020年の前の年です。確か去年の大コルトレーン祭をやっている最中に「何かコルトレーンの未発表音源がまた出るらしいよー」という情報をキャッチして、あらま、今度はどの時期のライヴか、それともどのアルバムのセッションの別テイクか。とかそんな事を考えてウキウキしてたんですが、段々詳細が明らかになって来るにつれて、いつもの「未発表が出るぞ」という情報の流れ方と様子が違う。

「映画のサントラらしい」

「今回の発掘は息子のラヴィがテープ整理してたら出て来たとかそういうのじゃないっぽい」

「てか、インパルスも音源があるってことを把握してなかったみたい」

とかいう

「えぇぇ!?じゃあどういう音源??全く意味がわかんない!」

と、期待と困惑が激しく入り混じる感情に、発売のその日まで激しく揺さぶられまくって大変だったアタシ。届いたCDを手に取ってもまだその期待と困惑は一切静まる事はなく、もう本当に今現在活躍しているバンドの新作のCDをドキドキしながら開封する。そんな気持ちを久々に味わいました。

さてさて、そんなこんなで錯綜する情報とアタシの想像の追いつけなさで、全くどんな内容か予測だに出来なかったこの「新作」。物理的な解説からすると、コルトレーン、マッコイ・タイナー、ジミー・ギャリソン、エルヴィン・ジョーンズ、つまり”黄金のカルテット”による、1964年のセッションであります。

64年といえば、カルテットも結成3年になり、数多くのツアーをこなしつつアルバムもリリースし、バンドとしての一体感も最高潮となっていた時期ですよ。この年に録音されたアルバムといえば『クレッセント』『至上の愛』というコルトレーンの音楽的思想、のようなものが濃縮還元されたような2枚の大作を世に出している。とにかくもう凄く充実していた時期なんですね。


で、このアルバムの音源はどういう音源なのかというと、これがもう異例中の異例のようなもので、ちょいと説明します。

カナダの若手映像作家で、ジル・グルーという人がおりました。

英語とフランス語の両方が公用語だったカナダでは、フランスのヌーヴェルバーグ映画人気が盛り上がっており、グルーもヌーヴェルバーグの質感のあるドキュメンタリー作品を、低予算で作りたいと思っておったんです。

『Le chat dans le sac(袋の中の猫)』と名付けられたこの作品は、冬のモントリオールで繰り広げられる男女の生活と、揺れ動く心情を淡々と描く、ドキュメントタッチの正にヌーヴェルバーグな質感の映画であります。

映像の構想とともに、音楽をどうするかという事を考えておりましたが、当時のヌーヴェルバーグといえばやはりジャズ。加えてモントリオールという場所は、アメリカからちょいと国境を越えてジャズマンが気楽に演奏に訪れる場所で、それに応える地元の人々のジャズへの愛着も深く、グルーはコルトレーンにぜひとも音楽をやってもらいたい、そう強く思っておりました。

というのも、グルーは多くのジャズマンの中でも特にコルトレーンの音楽に深く傾倒し、それまでリリースされたアルバムは全部持っているほどの、もう崇拝者とも言えるぐらいの熱心なファンだったんです。

どうしてもコルトレーンに音楽をやってもらいたいグルーは、ジミー・ギャリソンにサントラの話をお願いしてみたら、コルトレーンから「それはぜひやらせてほしい」と、早々と快諾を貰ったといういきさつがあります。

グルーがアメリカに行くと、コルトレーンは早速スタジオを手配しており、そこに録音技師のルディ・ヴァン・ゲルダーを伴って待っておりました。恐る恐る「こういう事をやってほしい」というリストをグルーが渡すと、ひとつひとつを真剣に見て

「これは出来る。これは私の曲ではないから出来ない。・・・うん、分かった!君が私にどういう事をやって欲しいのか理解出来た。」

と、答えるやいなやセッティングを開始して、カルテットで軽く曲合わせをした後にレコーディング。

何と驚くべきことに、レコーディングが終わったらそのテープをそのまんまルディ・ヴァン・ゲルダーが「ほい♪」とグルーに直接手渡しで渡したそうなんです。


ちょっと待ってヴァン・ゲルダー、それってマスターテープ・・・。


そう、つまり、このレコーディングはインパルスレコードがほとんど干渉しない、コルトレーンとカナダの映像作家との、極めて個人的な契約に近いレコーディングだったみたいで、例えばこれが映画会社からの依頼でちゃんとしたサントラ盤が出るとかになったら、それはインパルスがレコード制作から何から大々的に行うものだと思いますが、グルーの作品はあくまで自主制作で、制作会社や企業などのバックアップもないものでしたので「まぁよかろう」という事だったんでしょう。そらぁインパルスも音源あるなんて思いませんわなぁ。。。





ブルー・ワールド〜ザ・ロスト・サウンドトラック(SHM-CD)


【パーソネル】
ジョン・コルトレーン(ts)
マッコイ・タイナー(p)
ジミー・ギャリソン(b)
エルヴィン・ジョーンズ(ds)

【収録曲】
1.ナイーマ(テイク1)
2.ヴィレッジ・ブルース(テイク2)
3.ブルー・ワールド
4.ヴィレッジ・ブルース(テイク1)
5.ヴィレッジ・ブルース(テイク3)
6.ライク・ソニー
7.トレーニング・イン
8.ナイーマ(テイク2)

(録音:1964年6月24日)


『Le chat dans le sac(袋の中の猫)』はその年のうちに無事上映され、作中ではコルトレーンの演奏も印象的なシーンで使われております。

モノクロームの淡々としたドキュメンタリータッチの映画。そのオープニングから主演の2人がそれぞれ部屋の中で自分の事を一人語りするシーンからスーッと流れてくる『ナイーマ』。部屋からそれぞれの仕事先、雪降るモントリオールの街を背景と、場面が変わってコルトレーンの演奏は実に自然とシーンに溶け合っておりますね。

劇中で使用されている曲は、映画のために書き下ろされたものではなく、ほぼコルトレーンが既に演奏した事のある楽曲。なのですが!先に言ったように、全テイクがわざわざこのために録音された演奏なんです。

コルトレーンといえばアドリブが乗ってくるとまるで異世界に入ったように夢中で吹きまくる、それゆえに神懸かった長尺の演奏になりがちなんですが、このセッションでのコルトレーンは映画の尺を考えて、いずれもコンパクトな収録時間に合わせるために丁寧にアドリブを吹き、見事にまとまった演奏に仕上げております。

なので、このサウンドトラック、この時期の他のアルバムにはない特有の落ち着いた雰囲気があります。いつもの沈んだ荘厳さではなく、都会の音楽であるところのジャズとその景色にどっぷり浸かった爽やかな落ち着きです。

色んな意味で”バリバリ”にやっていたコルトレーンが、ふと前進しながら原典に返ったような作品として聴けるアルバムでもありますね。


























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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』


サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:00| Comment(0) | 大コルトレーン祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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