2020年08月24日

ジーン・アモンズ グルーヴ・ブルース

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ジーン・アモンズ・オールスターズ/グルーヴ・ブルース
(Prestige/OJC)

テナー・サックスという楽器は、その魅力的な中低音域の特徴ゆえ「ズ太い」とか「男らしい」とかいう形容でよく語られる楽器であります。

特にジャズの世界では、1920年代にコールマン・ホーキンスがその特徴をフルに活かしたソロを吹いてから、その影響を受けたテナー奏者が次々と現れるようになり、30年代のビッグバンドの時代になると、それまでソロの花形だったトランペット(コルネット)に代わってステージで喝采を浴びるソロの主役と呼ばれるようになりました。

はい、ジャズ・テナーをソロ楽器にしたコールマン・ホーキンスという偉人は、世界中の全てのテナー吹きから「親父」と親しまれる存在でありますが、そのホーキンスのズ太く男らしいテナー・スタイルは、アルト奏者のチャーリー・パーカーがビ・バップという全く新しいスタイルを築き上げてから、やや古臭いものと言う人もおるのですが、どっこいジャズやR&Bのテナー奏者達の中には、バップ・マナーも取り入れながら”親父(コールマン・ホーキンス)のタフで豪快なスタイルへのリスペクトを忘れない人達がちゃんといて、時代がどう変わろうが一定の勢力と人気を誇っていたんですね。

モダン・ジャズではソニー・ロリンズやデクスター・ゴードンといった大物達、R&Bの”ホンカー”と呼ばれるブルース野郎達、そしてアーネット・コブやイリノイ・ジャケーといった、アメリカ南部出身の”テキサス・テナー”の人達、それらをひっくるめて1950年代〜60年代以降もテナー本来のズ太い音と、小細工ナシのブルージーなフレーズ一発でライヴでもレコードでも豪快なブロウでファンを楽しませていた人達を「ボス・テナー」と言います。

この”ボス・テナー”という言葉、いつ誰が言い出したのか分かりませんが、戦後のジャズ・テナーで”ボス”と呼ばれていた、豪放磊落な性格そのものが音になったような、タフで貫禄に溢れたプレイで人気を博したテナー吹きがおります。その名もジーン・アモンズ。

一説によるとこの人の演奏を聴いてかつその豪快な人柄に触れた関係者が「アイツぁボステナーだな」と言った事が、この「ボステナー」なる言葉になって定着したと言われておりますが、その真偽はよくわかりません。が、彼は実際そう呼ばれていて、本人もその呼び名を気に入り、わざわざ「ボステナー」と冠したアルバムまでリリースしております。

偉大なブギウギ・ピアニストであるアルバート・アモンズの息子というジャズのエリートでありながら、そんな事を一切鼻にかけることもなく、気に入った現場で目一杯テナーが吹けさえすれば、レコードが売れようが売れまいがどうでもいい。ついでに後輩の面倒見はいいという、とにかく気風のいい、昔堅気の「親分!」と呼びたくなる性格だった事は確かなようで、麻薬で2回逮捕されたり、クスリの影響でセッションをすっぽかしたりとかもまぁあったようですが、ミュージシャン仲間や関係者でこの人の事を悪く言う人はいなかったどころか、この人が刑務所から出所する時は「親分、兄貴、叔父貴」と慕うミュージシャン達が刑務所の前にズラッと並んで出迎えたとか。。。


という訳で、今日はせっかくなんでそんなアモンズ親分とコルトレーンとの唯一の共演作であります『グルーヴ・ブルース』というアルバムを紹介しましょうね。

1957年に、Prestigeレコードはアモンズを中心にベテランから若手のサックス奏者を集めたオールスターズセッションを企画します。とりあえずアモンズのテナーに、実力派のバリトン吹きとして名を上げていたペッパー・アダムス、サックス、クラリネット、フルートと、あらゆるリード楽器を演奏出来る名手、ジェローム・リチャードソンは決まりましたが、更に人数多めにしてちょいと新しい個性を持ったやつをぶつけようという事で、当時Prestigeとソロ契約して売り出し中だったコルトレーンに白羽の矢が立つことになります。


で、ここからが面白いんですけど、アモンズは当時シカゴに住んでいたので、果たしてその日に遠く離れたニューヨークのスタジオに現れるかどうか、prestige側は甚だ不安だった。

だもんで、演奏も性格も安心安全なベテラン・テナーのポール・クィニシェットも、いざという時のためにスタジオに呼んでおったんですね。それで「もしアモンズ来なかったら"4サックス”ってことでそのまんまセッション初めるぞー」という感じで準備していたのですが、そこに

「おぅ・・・待たせたな野郎共」

と、はるばるシカゴから親分登場(!!)

わーいやったー!と、皆が喜んだんですが

「おいちょっと待て、オレとクィニシェットでテナーが2人、ほいでえぇと、お前何だっけ?」

「あ、アダムスです。ペッパー・アダムス」

「楽器は?」

「バ、バリトンっす!」

「オーケー。よぉジェローム!今日はおめぇ何吹くんだ?」

「あぁ、何でもいいけどこんだけサックス吹きがいるんじゃあな、オレはフルートだ」

「そうか、じゃあ頼む。・・・おい、お前は誰だ!?」

「ジョンです、ジョン・コルトレーン」

「何だって?」

「ジョン・コルトレーンです!」

「そうか、おめぇはアレか。マイルスのとこにいた若ぇ奴だろ?」

「いやその・・・色々あって・・・」

「何だって?」

「客分です!」

「そりゃあ良かったなぁ!」

「はい!ありがとうございます!!」

「ん?そういやおめぇ、テナー吹いてんだよな?」

「あ、いや・・・自分はその・・・」

「何だって?」

「昔アルト吹いてたんで今日はその、アルトを吹こうかなと・・・」

「そうかい、そいつはありがてぇ。よろしく頼むぞ」

という展開はありそうな事ですが、多分ないです。

とりあえずアモンズの考え方というのは

「オレぁテナーが吹けりゃーそれでいいんだよ」

というものでしたので、編成とかアレンジとかそういう細かい事には一切無関心で、そういう事は実質的なアレンジャーであるマル・ウォルドロンがささっと決めて、「2テナー、1アルトとバリトン、そしてフルート」というフロント編成で話はまとまって、軽く打ち合わせをしてセッションは行われたそうであります。




Groove Blues

【パーソネル】
ジーン・アモンズ(ts)
ジェローム・リチャードソン(fl,@AB)
ジョン・コルトレーン(as,@AC)
ポール・クィニシェット(ts,@A)
ペッパー・アダムス(bs,@A)
マル・ウォルドロン
ジョージ・ジョイナー(b)
アート・テイラー(ds)

【収録曲】
1.Ammon Joy
2.Groove Blues
3.Jug Handle
4.It Might As Well Be Spring

(録音:1958年1月3日)



さて、そんなこんなの”オールスターズ”とはいえ、実にPrestigeらしい出たとこ勝負のドタバタセッション、当然ながら大味な感じは否めないのですが、豪快なアモンズとジェントルなクィニシェットのテナーでの掛け合いを中心に、コルトレーンのいつものテナー・プレイのまんまなアルト・サックスに、程よく泥臭いジェローム・リチャードソンのフルート、そして実に良いコクとアクが出ているペッパー・アダムスのバリトンが、それぞれの個性を発揮して、良い感じのアットホーム感を醸しております。


前半のゆったりしたブルース調の『アモン・ジョイ』『グルーヴ・ブルース』は5管揃い踏みのゴージャスな感じ、アップテンポの『ジグ・ハンドル』は、アモンズとジェローム・リチャードソンが軽快&豪快にチェイス、バラードの『イット・マイト・アズ・ビー・ストロング』では「ススス...」という吐息混じりのサブトーンで色気たっぷりに吹くアモンズの後を受け、繊細な吹きっぷりでガラッと空気を変えるコルトレーンのバラード・プレイがとてもよろしいですねぇ。

そうそう、実はアモンズとコルトレーンって年齢はたったの2歳しか離れてないのですが、1940年代に18歳で既に名の知れたテナー吹きだったアモンズと、50年代の半ばを過ぎて、30歳手前でようやくソロのテナー吹きとして認められたコルトレーンとのキャリアの違いが生んだ音楽観の違いって結構デカいのですが、こうやってひとつのセッションで同じ曲を演奏し、その違いが出てもそれが互いの演奏を少しも侵害しないのは、何気に凄い事だと思うのですよ。特にラストのバラードでの2人の自然なやりとりを聴いていると、何故かじんわりと熱いものがこみ上げてきます。








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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

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posted by サウンズパル at 23:23| Comment(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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