2020年08月28日

First Giant Steps

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First Giant Steps
(RLR)


タイトルに「ジャイアント・ステップス」とありますが、”あの”ジャイアント・ステップスのファースト・テイク集とかそういうのではありません(それは現行盤のCDに本編と一緒にまとめられております)。コルトレーンが1959年に”ジャズ・ミュージシャン”としての自身の個性を完全に打ち立てて、その唯一無二の演奏を刻んだ名盤と本作は、全然関係ないのでありますが、本作は何と、コルトレーンのおそらくこれ以上古い音源はないであろうと思われる1946年の初レコーディングの音源と、コルトレーン飛躍のきっかけとなったマイルス・デイヴィス・グループ加入前の1954年、デューク・エリントンの片腕と呼ばれた名アルト奏者、ジョニー・ホッジスのバンドに居た頃のライヴ演奏のカップリング。








つまりですよ、つまりこのアルバムは「コルトレーンのアマチュア時代とプロとして世に出てすぐの下積み時代の貴重な演奏が聴ける1枚」で、いわゆるその〜、ファン必携というやつであります。

1926年に生まれたコルトレーンは、13歳でクラリネットを手にし、その後母親が12回のローンを組んで購入した中古アルト・サックスを手に、1945年からプロ活動をスタートさせております。最初に加入したのは、フィラデルフィアを拠点に活動していたジミー・ジョンソン・オーケストラ。

ところがジミー・ジョンソン・オーケストラに加入して1ヶ月も経たない1945年8月6日、コルトレーンは徴兵され、海軍で初年兵としての厳しい訓練を受けることになります。その訓練の期間中に太平洋戦争は終戦を迎えましたが、11月に訓練が終わった後、ハワイ真珠湾の海軍軍楽隊へと転属命令が出されます。

既に戦争が終わっていたので、コルトレーンは軍楽隊とは別に仲間達とプライベートなバンドを結成して演奏したりしていたようで、実はこの音源に収録されている演奏も、任務をこっそりとサボッて演奏していた時に録音されたものだったりするそうであります。

さてさて、そんな1946年の演奏ですが、ベニー・トーマスなるヴォーカルの歌モノが半分(軽めのクルーナーヴォイスでなかなかに良い)、インストが半分なのですが、驚くべきことにインストものでは『KoKo』や『Hot House』など、当時最先端の流行だったビ・バップをやってるんですね。

残念ながらバンドの演奏は素人臭さが抜けず、特にドラムがビ・バップが全然理解出来ていない感じで、アクセントのないリズムを単調に叩いているだけだったりして「おろろ」となってしまいますが、それでもコルトレーンのアルトがソロを吹くと、演奏がグッと引き締まったものになります。特に『Sweet Miss』や『KoKo』でのソロは、この時代のアルト・サックス演奏としては水準以上の素晴らしいものを感じる事が出来ると思います。

びっくりしたのは、このコルトレーンのアルトが、チャーリー・パーカーのビ・バップ奏法を完全にマスターしているんですよ。つうか、パーカーそっくりです。いや、ちょっと待て、確かにビ・バップが流行りだしたのは1945年からで、46年にはパーカーの人気は決定的なものになっていたのは間違いないんですが、それにしてもレコードは市場にそんなに出回ってないし、何より軍隊に入って任地にいるはずのコルトレーンがどうやってパーカーのフレーズをマスターするまでになれたのか?それが不思議でなりません。

恐らくは市販のレコードではなく「Vディスク」という軍の支給品のレコードにあったチャーリー・パーカーを聴きまくってそのアドリブフレーズを懸命に採譜して練習したのだろうとは思うのですが、この時代そこそこキャリアのあるプロでも悪戦苦闘していたというパーカー・フレーズを短期間でここまでモノにするとは、やはり勤務時間外はひたすら練習に打ち込んでいたのか。後に「練習の鬼」と言われていたコルトレーンのストイックぶりは、この頃からもう発揮されていたのかも知れません。

とにかくこのセッションを聴くまでアタシは「コルトレーンという人は何か漠然と”人と違うスタイルをやらねばならない”と強く思い過ぎていて、それゆえ20代の頃はその独創性が上手く形に出来ず、また、そのせいでたとえばソニー・ロリンズみたいにスイスイとアドリブが吹けずに、何となくぎこちない印象を与えるフレーズしか吹けなかった」と勝手に誤解しておりました。

ところがこの、当時まだそれっぽく吹けるプレイヤーさえも少なかった時代にビ・バップをマスターして堂々とした音色と滑らかなフィンガリングで吹ききっているコルトレーンのプレイを聴いて、アタシは完全に己の不明を恥じました。

コルトレーン、最初っから上手かった。







First Giant Steps

【パーソネル】
(@〜G)
デクスター・カルベートソン(tp)
ジョン・コルトレーン(as)
ノーマン・ポールショック(p)
ウィリー・スチューダー(b)
ジョー・タイマー(ds)
ベニー・トーマス(vo,@CDF)
(H〜N)
ジョニー・ホッジス(as)
ハロルド・ベイカー(tp)
ローレンス・ブラウン(tb)
ジョン・コルトレーン(ts)
コール・コブス(p)
ジョン・ウィリアムス(b)
ジェイムス・ジョンソン(ds)
Unknown(vo,KL)

【収録曲】
1.Embraceble You
2.Ornithology
3.Sweet Miss
4.It's Only a Paper Moon
5.Sweet Loraine
6.Ko Ko
7.Now's The Time
8.Hot House
9.Thru for the Night
10.Castle Rock
11.Don't Blame Me
12.I've Got a Mind to Ramble Blues
13.Don't Cry Baby Blues
14.In a Mellotone
15.Burgundy Walk

(録音:@〜G1946年7月13日,H〜N1954年6月)


続いては後半9曲目からの、ジョニー・ホッジス・オーケストラによる1954年のライヴであります。コチラはもう全員がプロ中のプロである見事なバンド演奏ですから、音楽的なグレードは最高。ついでに音質に関してもこの年代のライヴ録音としてはなかなかに良い感じで安心して聴けます。

ジョニー・ホッジスという人は、さっきも申し上げましたように、ジャズ界きっての一流オーケストラであるデューク・エリントンのビッグバンドの主席アルトサックス奏者として、特にバラードで見事なソロを聴かせる人でありました。

コルトレーンにとってはチャーリー・パーカーと同じぐらい、いや、アルトサックスを始めた当初は、ジョニー・ホッジスみたいに吹けるようになりたくて、エリントンのレコードからホッジスのソロ・パートを一生懸命耳コピして練習していた。それぐらいに思い入れのある人。

このホッジスが、色々あって古巣のエリントン楽団から脱退して(後に和解して戻るのですが)、自分自身のバンドを率いて活動していたのが1951年から55年の間の4年間。そしてどういう経緯でか、全く無名だったコルトレーンに「テナーで参加してくれ」との声がかかり、コルトレーンは晴れて憧れの人の演奏を最も間近で、しかも同じステージに立つバンドメンバーとして加入する事になるのであります。

「ホッジスのバンドに居た頃は最も充実していた、彼の曲はどれも面白く、中身があって最高にスイングしてたね!」

「昔から活躍しているホンモノのミュージシャンから、私は直接多くを学んだんだ」

と、後年のインタビューでは興奮気味に語っていたコルトレーンで、語った内容は紛れもなく事実なんですが、まだ20代だったこの頃のコルトレーン、人間的には実にダメで、連日浴びるように飲んでいた酒が原因で、バンドを半年でアッサリとクビになっております。

・・・その後、コルトレーンは無理矢理とも言える荒療治で、酒も麻薬も絶つ事が出来たのですが、その行動の根っこには「あぁ、オレはあのジョニー・ホッジスのバンドでもっともっと学べたはずだったのに何てバカなことをしたんだ・・・」という反省が大いにあったことでしょう。

さて、肝心の演奏です。ジョニー・ホッジスのコルトレーン入りのアルバムといえば、Verveから正規のスタジオ盤で出ております『ユースド・トゥ・ビー・デューク』というアルバムがありますが、コチラでのコルトレーンは完全にアンサンブル要員でソロは1曲もナシ。う〜ん、やっぱりホッジスのような大物から見たらまだ無名のコルトレーンなんて単なるバックでしかなかったかと思っていた矢先にこのライヴを聴いてアタシゃド肝を抜かれました。

何と、コルトレーン、全曲でソロ取ってます。しかも曲によってはホッジスが一歩引いて「若くてイキのいい奴のソロを聴いてやってくれ」とばかりにコルトレーンにほとんど吹かせてるのもありで、いやー凄い!なんですよ。

コルトレーンはホッジスのバンドに加入前はアール・ボスティックというR&Bのボスのバンドにおりました。その前はディジー・ガレスピーの楽団、更に合間にはビリー・ヴァレンタインやエディ”クリーンヘッド”ヴィンソン、ゲイ・クロッシーと、R&Bやジャンプ/ジャイヴ系(ディジーもこの時期の音楽性はどっちかというとジャイヴに近い)を渡り歩いており、ゴリゴリの低音を効かせてラフに吹きまくる、いわゆる”ホンカー”と呼ばれるR&Bテナーのスタイルの修行に明け暮れておった時期。

という訳で前半ではチャーリー・パーカーだったコルトレーン、後半は全く違う「ゴリゴリのホンカー」として、後の姿とはまるで違うスタイルで吹きまくり、存分に楽しませてくれます。

1発目の『Thru for the Night』から、ホッジスのソロの後を受け継ぐ形でハロルド・ベイカーが短めのソロを吹きますが、その後に出てくるテナーがコルトレーン。ソロの前半は太めの音でブルージーに、そして後半にテンポアップした、音数の多いソロをグイグイ吹きます。これがもう見事で「うぉぉ!」となるのですが、圧巻は2曲目の『Castle Rock』これがさっき言った「ホッジスが一歩引いてコルトレーンにソロを吹かせてる曲」なんですが、ジャンピンジャイヴなシャッフルビートで、お前はどこのイリノイ・ジャケーかとツッコミたくなるぐらい見事にべらんめぇな豪快ソロを、吹ききっております。

後年のコルトレーンを知っている我々にとっては、この時期の演奏は発展途上なのかも知れませんが、他の曲でも全くとちったりどもったりしない堂々たるホンカーぶりをテナーで聴かせてくれるコルトレーンの演奏は、もう「このスタイル」としては完成の域に達しております。

マニアかファン向けの音源と紹介される事も多いアルバムかも知れませんが、10代でビ・バップをモノにして、20代では全く違うR&Bなスタイルも極めたコルトレーンの演奏は、未聴の人でも十分に楽しく聴けるシロモノだと思います。特に後半のホッジスは、バンドサウンドとライヴの雰囲気もとても良い好内容です。























『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:17| Comment(0) | 大コルトレーン祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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