2020年10月25日

スティーリー・ダン キャント・バイ・ア・スリル

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スティーリー・ダン/キャント・バイ・ア・スリル
(ユニバーサル)


若い頃、アタシはおからとかもずくとか納豆とか、そういったものが苦手で、おかずの中にでも入っていようものなら「こんなもん食えるかー!!」と思って残しておりました。

えぇ、いわゆる食わず嫌いってやつですね。これはいけません。

ところが30を過ぎた頃、急にですよ、えぇ、急にそれまで大好きだった牛肉が食べられなくなり、同時にふとした事でたまたま食べた納豆を「うは!これ凄く美味しい!!」と思うようになって、それから納豆、もずく、おから、山芋、オクラなど、体に良い(と思う)素朴な食材が大好きになりました。

人間の好みなんてのはいい加減なもので、ちょいと歳を取ればふとしたきっかけでコロッと変わるもんでございますねぇ。。。

何を言いたいのかと言うと、スティーリー・ダンの話をしたいんですよ。

主に白人シンガーが、ソウルやR&Bに影響を受け、バックも爽やかで何だかかよく分らんけど都会的というか、海辺のリゾート地というか、そういう雰囲気を醸すポップスの事をAOR(アダルト・オリエンタル・ロック)と言うのですが(細かく言えばもっと細かいのですが、ここでは分かりやすくザックリ表現しとります)、アタシが若者だった1990年代から2000年代初め頃ってのは、感覚でいえばこのテの音楽ってのは、ひと世代上の人達が愛好するものであり、もうとっくに過ぎ去った1980年代の「良かった時代」のぬるい音楽だと、ロクに聴きもしないうちから勝手に思い込んでいて、どうも「聴こう!」って気にはなれなかった。

で、ちょとっと聴いてみると、やっぱり爽やかで洗練されていて「うわぁ、やっぱりどーも俺は苦手だっ!」と、足早に退散しておりました。

まぁ若かったんです。とにかく刺激が欲しくて、ガリガリゴリゴリしたものばかりを求めていた10代後半とかハタチそこらのチンピラなアタシにとっては、AORはおろか、マーヴィン・ゲイやカーティス・メイフィールドですら、何となくぬるい音楽に感じ、その後彼らの歌詞を読んで「すいませんでしたー!!!」となった訳ですから。

スティーリー・ダンという名前は、アタシにとっては何だか苦手なAORを代表する”人”の名前で、「どんな音楽でも聴くよ♪」なんて訳知り顔でのたまっていたアタシにとってはなるべくなら触れることなく避けて通りたい、そんな鬼門のような存在だったのです。


ところがやはり人間の価値観とか感覚とか好みなんてものは実にいい加減なもので、それから数年でアタシはスティーリー・ダン、コロッと「あれ、いいぞ?」と思うようになりました。

はい、たまたま聴いたデビュー・アルバム『キャント・バイ・ア・スリル』の1曲目『ドゥ・イット・アゲイン』ですね。この曲が当時好きになったスティーヴィー・ワンダーの『インナーヴィジョンズ』アレに雰囲気が似てた。曲とかヴォーカルは70年代ソウルっぽくて、リズムがクールなラテン、そして途中で入るギターソロが実にロック!

うわぁこれはカッコイイ、っていうか体が自然と横に揺れるよなぁ。誰だこれ、えぇ!?スティーリー・ダン!?いつのアルバム?えぇぇ!?1972年!?つうかスティーリー・ダンって人の名前じゃなくてアーティスト名!?

とか、カッコイイついでに色々と混乱してしまいまして、そのまま「スティーリー・ダンはかっこいい」という風になってしまいました。

いやはや、後年のアルバムの爽やかなフュージョンテイストの、本当に”何となく”のイメージがあったもんで、この人達はてっきり80年代になってから世に出て来たバンド(というか当時はソロ・シンガーと思ってました)だと思っておりましたが、ロックやいわゆるニュー・ソウルが人気を博す丁度その時期に、色んな音楽の要素が無理なく無駄なく重なり合った、全く独自のオリジナルな音楽を作っておった訳なんですね。

スティーリー・ダンは、ニューヨークの学校で知り合ったドナルド・フェイゲン(キーボード、ヴォーカル)と、ウォルター・ベッカー(ベース)が、ポップスの作曲家を目指し、そして西海岸のロサンゼルスでメンバーを集めたり呼び寄せたりして、1970年代の初めに結成されたバンド。

そもそもフェイゲンとベッカーは、作曲家指向であり、バンドも当時の流行だったワイルドなロック・サウンドを指向するようなものではなかったため、結成初期からメンバーとはあんまり上手く行かなかったようで、70年代半ば以降はライヴ活動を止めてスタジオでの創作に専念するようになり、そのスタジオには主にクロスオーバー・ジャズ、ソウルやR&Bのミュージシャン達をゲストに呼んでバンドというよりはほとんどフェイゲンとベッカーのスタジオ・プロジェクトのような形態を取り、80年代にはそんな2人の間に起きたトラブルのため、一時的に活動休止となっていましたが、90年代に再び2人での活動を再開。

この時からスティーリー・ダンとして精力的にライヴツアーなども行うようになり、往年のファンや活動休止中にドナルド・フェイゲンのソロ活動以来のファン、そして新しいファンも獲得し、音楽的にも再び高い評価を獲得するようになり、2000年には1977年に発表したアルバム『彩(Aja)』がグラミー賞を受賞するなど、その動向もまた注目されておりました。

2017年にウォルター・ベッカーが亡くなってからも、ドナルド・フェイゲンは単独でスティーリー・ダンを率いて精力的にツアーを回り、もしかして現役中最も活発なのではないかと思うぐらいに活動しております。




キャント・バイ・ア・スリル


【収録曲】
1.ドゥ・イット・アゲイン
2.ダーティ・ワーク
3.キングス
4.ミッドナイト・クルーザー
5.オンリー・ア・フール
6.リーリング・イン・ジ・イヤーズ
7.ファイアー・イン・ザ・ホール
8.ブルックリン
9.チェンジ・オブ・ザ・ガード
10.ハートビート・オーヴァー・アゲイン


はい、ザッと経歴を紹介したところで、アタシが最初に「うぉぉ良い!」と思った1972年リリースのデビューアルバム『キャント・バイ・ア・スリル』であります。

先ほども申し上げたように、アタシはとにかく冒頭の『ドゥ・イット・アゲイン』の、そのニューソウルに心地良くラテンのビートとロックのフィーリングを持つギターが、何の不自然さも感じさせずに混ざり合ったサウンドにグッと惹かれたのですが、元々彼らは50年代60年代のジャズ、リズム・アンド・ブルース、そしてカントリーといったルーツ音楽の質感というものを非常に大事にしており、2曲目『ダーティ・ワーク』での郷愁を誘うイントロのオルガンとホーンの優しい響きや、グルーヴィーな曲調に、どこかひんやりした哀愁が付きまとう『ミッドナイト・クルーズ』(この曲も微妙に歪んだ簡潔なギターソロが良いです)、ちょっぷり不良っぽい歌い方とこちらもラテン風のリズムが心地良い『オンリー・ア・フール』、カントリー・ロック・テイストの『リーリング・イン・ジ・イヤーズ』、などなど、とにかく1曲1曲に詰め込まれた色んなジャンルの音楽のエッセンスが、ひとつひとつじっくり練り込まれた展開とアレンジでもって、全く別物のポップスになって輝いておりますね。

このアルバムをじっくり聴いて、他のスティーリー・ダンのアルバムを聴いたら、なるほど基本的にはこのファーストで築かれた「色んな要素埋め込み、でも曲はあくまで自然に」という音楽的な骨組みは全然変わっておりません。むしろこれ以降、余分な泥臭さをどんどん濾過していって、洗練を研ぎ澄ませ、今も洗練を止めていない感じがとてもしますが、まーとにかく曲がいい声がいいアレンジがいいという事が集中的に耳から入ってきます。難しい事を聴く人にはあまり感じさせず「あれ、いいわ♪」とさり気なく思わせてくれる音楽、良いですよね。










『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 23:07| Comment(0) | ロック/ポップス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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