2024年07月18日

ジョン・コルトレーン ヴィレッジ・ゲイトの夜

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ジョン・コルトレーン/ヴィレッジ・ゲイトの夜

(Impulse!/ユニバーサル)

コルトレーンがデビュー前から「オリジナリティ」というものに並々ならぬこだわりを持ち、バックを務めたリーダー達や共演者達のプレイからちょっとしたヒントも逃さずに糧として自らの個性を磨き上げてきた話は当ブログで何度もしてきました。

コルトレーンが時代を牽引するリーダーの一人となったのは、1960年代になって自身のバンドを持つようになってからですが、丁度良いタイミングで新進気鋭のレコード会社「インパルス」と契約し、第一作目となるアルバム『アフリカ/ブラス』を世に放ちます。




ここでアレンジャーとして起用されたのが、アルト・サックス、バス・クラリネット、フルートをこなすマルチリード奏者、エリック・ドルフィーでした。

エリック・ドルフィーという人は本当に凄い人で、どんな風に凄いかって言ったら、音域の限界ともいえるような超高音と低音が凄まじい速さで跳躍するようなフレーズを難なく吹けた。それも調性ギリギリの難しい半音階を一瞬で複雑に組み合わせながら。だからドルフィーが吹くアドリブのフレーズには、どこか奇妙で不安定な独特の響きがあったのですが、その個性はぶっ飛び過ぎていて、広く一般の聴衆にはまだまだ受け入れられてはおりませんでした。

コルトレーンはそんなドルフィーの才能を早くから高く評価し、世の人々に知らしめようと思っておりました。同時に「こんなオリジナリティに溢れたヤツと一緒にプレイ出来たら、オレのプレイもいい感じに刺激されてもっともっとオリジナルなものになるかも知れない」と思っていたことでしょう。ドルフィーに「一緒に演ろうぜ」と熱烈なラブコールを送り、遂にアレンジャーとしてではなく、純粋に「自分のバンドのもう一人のフロントマン」としてドルフィーを抜擢します。

まずは手始めに1961年5月のスタジオにて、古巣のアトランティック・レコードでまだ残っていた契約を消化するためのアルバムのレコーディングにドルフィーを誘います。この時の録音は『オレ!』というアルバムとして正式に発売されております。



で、ドルフィー入りのコルトレーン・バンドはこの後ライヴ盤として『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』とリリースして、怒涛のヨーロッパツアーへと出発。ここでの演奏は主に私家盤として色々発掘され、この強烈な個性と個性が互いにぶつかり合い、互いに刺激し合い、そして演奏全体を何ともいえない高みへと持ってゆく凄さを、耳にした多くの人に刻み付けた訳です。





ところが、コルトレーンの演奏記録では「このグループのライヴが8月8日から9月3日、つまりおよそ1ヶ月もの長い期間開催された会場はヴィレッジ・ゲイトっていうクラブなんですよ」というのがあって、ファンとしては「うわ〜、ヴィレッジ・ゲイトでやったライヴの音源とか出てきたら最高だろうな〜、でもないかー、ラジオ放送とかそういうのがいっぱいあったヨーロッパならまだしもアメリカの、しかもコルトレーンとかにとっちゃあいつもやってる馴染みの店ぐらいのニューヨークのクラブだからな〜」と、諦めてはおったんです。

いやでもモンクとのアレとかハーフノートでのアレとか、コルトレーンの家族が持っていたテープがあるからもしかしたら...。あぁ勿体ぶるのはやめましょう、はい、出たんです、ヴィレッジ・ゲイト。しかも2023年に。今回は何とニューヨーク市にある図書館の資料として眠っていたものらしいです。

録音の経緯もちょっと変わっていて、大体こういうライヴのプライベート録音ってのはコルトレーンの当時の奥さんとか、誰か関係者がコルトレーンが聴き返すために録っていたというのが多いのですが、今回の録音は何と、当時のヴィレッジ・ゲイトの音響担当の店員さんが

「新しくマイクとオープンリール買ったんだけど音どうかな?今度誰がライヴやるんだっけ?あ、コルトレーン?丁度いいや、そん時マイク吊るして音録ってみよう」

と、単なる店の機材チェックのための音源だったようです。

今の時代の我々からすると何と贅沢な、なんですが、当時のニューヨークのクラブはコルトレーンもマイルスも、その他のすんごい人達も当たり前に出てたから、まぁ日常なんでしょうね。何と贅沢な。。。






ヴィレッジ・ゲイトの夜 (通常盤)(SHM-CD) - ジョン・コルトレーン
ヴィレッジ・ゲイトの夜 (通常盤)(SHM-CD) - ジョン・コルトレーン
【パーソネル】
ジョン・コルトレーン(ts)
エリック・ドルフィー(as,bl,fl)
マッコイ・タイナー(p)
レジー・ワークマン(b)
アート・デイヴィス(b,D)
エルヴィン・ジョーンズ(ds)


【収録曲】
1.マイ・フェイヴァリット・シングス
2.ホエン・ライツ・アー・ロウ
3.インプレッションズ
4.グリーン・スリーヴス
5.アフリカ


(録音:1961年8月)


さて、内容にいってみましょう。ステージのほぼ中央の天井から吊るした1本のマイクで録ったとおぼしきこのライヴ盤、当然モノラルで、中央にエルヴィン・ジョーンズのドラムがドカンと座り、そのすぐ脇にコルトレーン、やや離れた位置にドルフィーという位置関係が確認出来る程、音質はクリアです。ただ、色んな人が指摘しているように、録音のバランスは最初からリリースを目的に録音されたものに比べたら悪く、特にベースとピアノは後ろに引っ込んでいる感が否めません。

それでもまぁイヤホンかヘッドフォン、或いはボリュームを上げたらエルヴィンのビシバシくるドラミング(特にバスドラの「ゴスッ!」がヤバイ)を中心に、ライヴならではの生々しい臨場感は十分に楽しめてお釣りがくるぐらいなので途中からバランスはどうでもよくなってきます。

1曲名はエルヴィンのドラムの遠くからドルフィーのフルートかフェイド・イン気味に入ってきて軽やかに飛び回るような音象を描き、続くコルトレーンのソプラノがエキサイティング極まりない『マイ・フェイヴァリット・シングス』。ドルフィーが入る前に録音されたオリジナル・ヴァージョンは確か1960年でしたね。そのヴァージョンのコルトレーンのソロは噛み締めるようにしっかりとメロディーを口ずさんでいる感じでしたが、1年も経たずにぶっ飛びまくった、フリージャズみたいなソロを吹きまくるコルトレーンの気迫に圧倒されます。

2曲目『ホエン・ライツ・アー・ロウ』はこの時期のコルトレーンには珍しいストレートなスタンダード・ナンバーですが、この小粋な曲を舞台に、ソロに突入するや暴れまくるドルフィーがまず凄まじいです。バスクラで「ここまでやるか!」というぐらいのいななきでスタンダードを解体しております。コルトレーンのソロはドルフィーより短めで、ドルフィーを大々的にフィーチャーした感じですね。この曲、実はコルトレーンがマイルスのバンドにいた頃に、アルバム『クッキン』でやっておりますので、興味ある方は聴き比べてみてくださいね。

さて、のっけからライヴ盤ならではのハイ・テンションでありますが、本番はこれからです。個人的にコルトレーンのキレッキレのソロが聴ける定番曲として好きな『インプレッションズ』、そして『アフリカ/ブラス』より『グリーンスリーブス』『アフリカ』と、怒涛の後半は、まずは期待に違わずイケイケの暴走を、いつものテナーではなくソプラノで繰り広げる『インプレッションズ』は、コルトレーンの独断場。ソロが盛り上げるにつれてどんどんパワフルにヘヴィになってゆくエルヴィンのドラムと一体となって激しく燃え上がるプレイがこのアルバムのハイライトとも言えますね。この大暴走を引き継いだドルフィーはどんなぶっ飛びを聴かせるのかと思いきや、熱気を逆手にとったミステリアスなフレーズで引き締めます。こういう展開もまたゾクゾクします。

『アフリカ』のイントロのようにまたまたフェイド・イン気味に今度はコルトレーンのソロから入る『グリーンスリーブス』は、コルトレーンの最初のソロを引き継いだマッコイ・タイナーのピアノが美しく、改めて「いい曲だな〜」とホロッとします。スタジオ盤ではなかったドルフィーのソロパートも、ライヴではしっかりと。バス・クラリネットという楽器の特性か、ドルフィーの吹くソロはどこかの民俗楽器のような、そんな雰囲気もあり、ここから『アフリカ』へと続く荘厳でスピリチュアルなムードを高めています。最後にコルトレーンの2回目のソロがありますが、今度はおよそ5分間をソプラノで吹きまくり、うわぁぁ〜!と盛り上がってから再び美しいテーマで着地を見事に決めておします。

で、ラストナンバーにして圧巻なのが『アフリカ』。淡々としたリズムとコードの繰り返しの中で叫んだりとぐろを巻いたりしながら何かを召喚でもしてしまいそうなコルトレーンのサックスとドルフィーのバスクラ、そこから暗い星屑を散りばめたかのようなマッコイの長めのピアノ・ソロの後に満を持して登場するのがアート・エイヴィスとレジー・ワークマンのツイン・ベースの長いソロ。22分ある曲ですが、ベースソロは何と5分以上あります。でも、このベースソロが、曲全体の漂う、呪術とか祝祭とか、そういった言葉がぴったりのムードを最も凝縮した空気を増幅させています。続くエルヴィンの静かなドラムソロがまた良いですね、緊張を一気に突き破るようにコルトレーンとドルフィーが同時にソロの応報を繰り広げ、聴く人の心をどっかにかっさらったままのフィナーレであります。

いやもうコルトレーンのライヴ盤は、良いとか素晴らしいとか言う前に、毎回物凄い力に引き込まれて圧倒されてしまいます。先も言いましたが録音バランスは多少悪いのではありますが、ほんと引き込まれてもみくちゃにされてるうちにどうでも良くなってきますので、コルトレーンが好き、ヘヴィなジャズにもみくちゃにされたい方には、コチラも他のライヴ盤どうよう是非聴いていただきたいなと激しく思います。




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2023年07月18日

大コルトレーン祭2023

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こんばんは!今年も暑い夏と共に大コルトレーンの命日がやってまいりました。

毎年この日は、個人的に一番好きな『ラッシュ・ライフ』をまず聴いてしっとりした気持ちになるですが、今日はちょっと違うアルバムを聴いてアツい気分になっておりました。そのアルバムについては明日以降じっくりと書いていきますね。

という訳で。





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2022年08月29日

ジョン・コルトレーン ジュピター・ヴァリエーションズ

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ジョン・コルトレーン/ジュピター・ヴァリエーション
(Impulse!/ユニバーサル)

コルトレーンが1960年代の初め頃から率いてきた、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)のカルテットは、およそ5年間の活動の中で多くの作品を世に出し、その中でコルトレーンというミュージシャンを、単なるジャズ・テナーの巨人という評価にとどまらない60年代最高のカリスマという位置にまで押し上げてきましたが、このカルテットは1965年に更なる音楽の探究に乗り出したいコルトレーンと、他のメンバー達との理想の食い違いによってあえなく崩壊してしまいます。

で、コルトレーンは新たにファラオ・サンダース(ts)、アリス・コルトレーン(p)、ラシッド・アリ(ds)という若手をメンバーに加え、大胆なフリーフォーム、1曲20分は超える長時間演奏という過激なアップデートを経た演奏を武器に再出発します。

ところが、この頃既にコルトレーンの体は深刻な病魔に蝕まれており、新バンド結成から僅か1年程、まだまだこれからというところであの世へと旅立って行ってしまいます。

後にファン達が「晩年のコルトレーン」と呼ぶようになる新生コルトレーン・クインテット、活動期間は僅か1年、その間にリリースしたスタジオ・アルバムは『エクスプレッション』のみだったという事は、なかなかに重い事実であります。

しかし、新バンド結成から亡くなるまで、コルトレーンはこれまで以上に精力的に活動して、ひっきりなしにライヴを行い、スタジオにも入っておりました。

オフィシャルなものでもライヴ盤は生前に出された『ヴィレッジ・ヴァンガード・アゲイン』があり、死後も『ライヴ・イン・ジャパン』や、近年では『オラトゥンジ・コンサート』『ライヴ・アット・ザ・テンプル大学』などなど、そしてスタジオ盤ではラシッド・アリとのデュオ『インターステラー・スペース』『ステラー・リージョンズ』など、これが何で発表されなかったんだろうと思えるほどの素晴らしいクオリティを誇る作品がリリースされております。

スタジオ録音に関しては、コルトレーンがスタジオで回していたテープを奥さんのアリスが譲り受け、それを発掘のプロであるマイケル・カスクーナが中断部分やミステイクを丹念に削って作品化し、色んな手続きを経て世に出された。という訳なんです。

さて、本日ご紹介しますアルバム『ジュピター・ヴァリエーション』は、晩年のコルトレーン・クインテットの未発表スタジオ録音最大の成果と言って良いほど見事な「作品」であります。

実は、このアルバムに入っている演奏は、コルトレーン死後に一度世に出た事があります。

まずは2曲目の「ピース・オン・アース」、これは『ライヴ・イン・ジャパン』における美しい名演で知られる曲ですが、アリスがコルトレーンに死後、スタジオテイクに自身がアレンジしたストリングスとチャーリー・ヘイデンのベースをオーバーダビングしてリリースした『インフィニティ』というアルバムで聴けます。

そして、3曲目『ジュピター(ヴァリエーション)』と4曲目『レオ』は、ご存じラシッド・アリとのデュオ盤『インターステラー・スペース』のボーナストラックとして聴けるのですが、ここで「なーんだ、他で聴けるんならこのアルバムいらねぇや」と思うのはちょーーーっと待ったぁーーー!なのであります。

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【パーソネル】
ジョン・コルトレーン(ts,,bells-@A)
ファラオ・サンダース(ts,tambourine,wooden fluteA)
アリス・コルトレーン(p,@BC)
チャーリー・ヘイデン(b,@)
ジミー・ギャリソン(b,@BC)
ラシッド・アリ(ds)
レイ・アップルトン(perc,@)


【収録曲】
1.ナンバー・ワン
2.ピース・オン・アース
3.ジュピター (ヴァリエーション)
4.レオ

(録音:@1967年3月7日,A1966年2月22日,BC1967年2月22日)


まず、このアルバムが”作品”として非常に優れているのですよ。前半2曲をクインテットの演奏、後半2曲をコルトレーン×ラシッド・アリのデュオにした事で、聴きどころが非常に鮮明になって、4曲の緩急豊かな流れからダレることなく聴き通せる(それでも1曲の密度がかなり濃くてヘヴィなので心して聴くべし、なのですが、それはまぁこの時期のコルトレーンの演奏全部がそうだと思ってください)し、そういう流れで聴くと、特に後半のデュオが、全編デュオの『インターステラー・スペース』とはまた違った感じでより生々しく輪郭が浮き上がってくるんです。

1曲目『ナンバー・ワン』は、新生コルトレーン・バンドの自己紹介のようなフリーフォーム・ナンバー。不穏な空気が螺旋状に渦巻きまがら、コルトレーンが叫ぶ11分強の演奏です。ラシッド・アリがシャンシャンと細かくシンバルを刻み、アリスがカラコロガラゴロとちょっと儚い感じの鍵盤を転がしてジミー・ギャリソンが「ボウン、ボウン」と入魂の弦を弾く。そしてコルトレーンがアツくなればなるほどバックの醸す雰囲気がどんどん深い所へと沈み込むような、一言で”フリー”とは言えない荘厳な雰囲気であります。

2曲目『ピース・オン・アース』は、何と言ってもメロディが綺麗です。コルトレーンが吹くメイン・フレーズが徐々に形を変えたり崩したりしながら、感情の奥底から湧いてくるような希求のようなものを描きます。細かい”リズムのないリズム”を淡々と刻んでいるラシッド・アリのドラムと、クラシックの印象派のようなアリスの美しいピアノが涼やかに鳴り響いていて、ファラオの木製フルートがチラッと出てきて温もりを置いてゆく。ライヴ・イン・ジャパンの25分越えの陶酔感にどっぷり浸れるヴァージョンも良いですが、このギュッと凝縮された8分間もなかなか良いもんです。

そして後半のラシッド・アリとのデュオ。まずは『ジュピター(ヴァリエーション)』。コルトレーンとアリのデュオは、単純な”クインテットの他の楽器を抜いたもの”ではありません。コルトレーンもアリも、バンドのメンバーという枠を取っ払って、それぞれが一人の表現者として裸で向き合っている感じがします。「ゴボッ!ゴボッツ!」とひとつひとつの音を強めに吹くコルトレーンに対し、細かい音の拡散で上昇気流を作り、その上で更にコルトレーンが飛べるように空気を作ってゆくアリ、よく聴くと絶妙なアクセントでバスドラも細かく踏んでいて、ドラムの打撃の音域全体にも鋭く神経通しております。

ラストの『レオ』は、更にコルトレーンのテンションが上がり、最初からフルに飛ばしていて、これは本作中最も熱い演奏です。アリも物凄く力が入っていて、「スネア→タム→シンバル→」と、ぐるぐるぐるぐるリズムを旋回させて、高高度でコルトレーンのテナーと激しい一騎打ちを繰り広げている感じで、スネアを刻むアクセントの「タタタタタタ!」にバスドラが加わって、更にタムの連打も併せて「ズドダダダダダダダ!!!!」になるところなんか、もうね、もう凄くカッコイイですね。

ラシッド・アリは元々マックス・ローチのドラミングを凄く研究していて、特にソロ楽器のアドリブに対応するローチの細やかなリズム・チェンジを自らのドラム奏法に取り入れているそうです。ローチはあくまでオーソドックスなスタイルのドラマーではありますが、なるほどコルトレーンがサックスを吹き止めて鈴を鳴らしている時のドラムソロみたいなパートを聴くと、ローチの細かくたたみかけるソロからの強い影響が感じられるような気もしますが、何より「パシィ!」と響く出音の鋭さに「おぉ、確かにそうだ!」となって興奮しちゃいます。すいません、今正に聴きながら興奮しながら書いてますんで文章がちょっと先走ってる感満載なんですが、そこはご容赦ください。

『ジュピター・ヴァリエーション』前半の人数多めの演奏が内省的で、後半のデュオがハイテンションなんですよね。というか、これこそが晩年のコルトレーンの”色”だと思います。発掘モノとくればファン向けで〜と思う人もおるかも分かりませんが、この作品は「コルトレーンの晩年のフリーになった演奏ってどんななんだろう?聴いてみるべか」とお試しになりたい人にとっては特にこの時期のコルトレーン・サウンドを無駄なく分かりやすく伝えてくれる作品なんじゃなかろうかと思います。






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2022年07月17日

大コルトレーン祭2022


皆さんこんにちは、諸事情によりブログを長期休眠させておりましたが、リハビリがてら無理のないペースで再開していこうと思います。

さて、そうこうしている間に毎年恒例夏の風物詩『大コルトレーン祭』の7月17日がやってきましたね。

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いつものようにシャワーを浴びて水に浸かって(なんせ座ってるだけでも汗がダラダラ出てくる酷暑ですんで)、さっぱりした気持ちで取り出したのは、単純に「好き」という意味で一番な『ラッシュ・ライフ』です。

これはねぇ、マイルス〜モンクのバンドで自身を鍛え上げ、ジャズ・テナー奏者として円熟したコルトレーンの、本当に素晴らしいジャズのコクみたいなものがたっぷり詰まった一枚なんですよね。




このアルバムについては上のリンクにレビュー書いてあるんですが、それより何より1曲目『Like Someone In Love』という美しいバラード曲で、もう最初の最初に響くテナーの高音部が悶絶するほど美しいんですよね〜。

そしてお出かけの準備をしながらレコードで聴きたくなったのがコチラ

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”猫ジャケ”もかわいいトミー・フラナガンの『ザ・キャッツ』セッションです。


これはですのぅ、一応トミー・フラナガン名義にはなってはいるものの「この人がリーダー!」みたいなのじゃないんですわ。当時このPrestigeレコードがよくやっていたテキトー・セッション(言い方)。コルトレーンと仲の良かったデトロイト出身のトミー・フラナガンやケニー・バレルやポール・チェンバース達がリラックスした雰囲気で行ったジャム・セッションなんです。

詳しくはレビューを読んでいただくとして↓



50年代の、いかにもハードバップって感じの不良っぽさが大変によろしいですな〜♪

さて、お出かけから帰ってきて今度はコルトレーンが60年代に入ってジャズの枠組みをハードに逸脱しかけたゴリゴリのヤツが聴きたくなってきました。どれがいいかな、そらもうコレよ。


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はい、1曲40分、コルトレーン以外に前衛とかフリーとか言われた若手サックス奏者なんかが大勢参加した『アセンション』ですね〜。

とにかく曲が長いのと、最初のテーマ(らしき部分)やソロの合間にホーン軍団がそれぞれ「ゴー!」とか「ぶぎゃー」とか叫んでるから、相当覚悟して聴かなこれ潰されるとかビビリまくってたし、雑誌のレビューとか読んでも「衝撃の問題作」とか書かれたたりしてた、いわば「コルトレーン、好きか嫌いか」みたいのが試されるようなアルバムではあるんですが、よくよく聴けば各人のソロは割ときっちりチェンジしてるし、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)のリズムは「意地でも崩さん!」とばかりに定型を守ってるんで、そんなに言われてるような無茶なアルバムではないです。

ただ、作品全体から迫ってくるパワーは相当なものがありますんで、その圧倒的パワーにサンドバッグにされる快感はかなりのもんでしょう。





個人的には「ずっと絶叫」のファラオ・サンダースと「フリーっぽいのに何だか優しい」マリオン・ブラウンのソロがすげー好きです。

という訳で、今年は目出度く朝からコルトレーン三昧。大コルトレーン祭は例によって7月はほぼ毎日、8月は別のアーティストのレビューを挟みながら夏が終わるまでやりますね。皆さんどうぞよろしくお願い致します。





”ジョン・コルトレーン”関連記事


『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』


サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
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2020年08月31日

ジョン・コルトレーン オファリング〜ライヴ・アット・ザ・テンプル大学

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John Coltrane/Offering: Live At Temple University
(Impulse!)


8月も早いもので最終日。ということは今年もジョン・コルトレーンの命日7月17日から始まった大コルトレーン祭が幕を閉じます。

このブログでも2014年か2015年ぐらいからせっせとコルトレーンのアルバムや参加作のレビューをアップしているのですが、いやぁまだまだコンプリートにはなりませんね。レビューが尽きたら大コルトレーン祭どうすんだ!ともちょっと思うのですが、そこはまぁ気にしない。何でも思い付いたら書けばいい♪

という訳で、2020年『大コルトレーン祭』最終日の本日は、気合いの入った2枚組のライヴ盤について、気合いを入れてレビュー致します。

邦題『オファリング(魂の奉納)〜ライヴ・アット・ザ・テンプル大学』という物凄いタイトルが付いたアルバムです。

録音は1966年11月。コルトレーンが亡くなるほんの8か月前の録音で、いわゆる”フリージャズ化した”と言われている最後のグループによる演奏ですね。

この時期のコルトレーンのグループ、レギュラー・メンバーはコルトレーン、ファラオ・サンダース、アリス・コルトレーン、ジミー・ギャリソン、ラシッド・アリの5人で、スタジオ・アルバムや外国での公演はこのメンバーで行っておりましたが、アメリカ国内で行われていたライヴは、パーカッションや他の管楽器奏者をゲスト的な感じで加入させ、より混沌とした祝祭感に溢れたステージをやっており、このテンプル大学での演奏も、そのようなライヴの貴重なひとコマを記録したものです。


このコンサートは大学の有志によって企画され、スタッフの手によって録音が成されておりました。

そして、CDではDisc-1とDisc-2の1曲目に当たる部分がラジオ放送でオン・エアされ、そのエア・チェック盤が、早いうちからブートレグで世に出回っておりましたが、2014年に全く未発表だった同日の3曲分の演奏が追加され、正規盤としての手続きを経て、めでたくリリースされたといういきさつがあります。

この”いきさつ”の部分が面白いのでちょっとお話しますと、我が国の世界的ジョン・コルトレーン研究科の藤岡靖洋氏さんという方がおりまして、この人が2010年にコルトレーンについての講演をしにテンプル大学へ行った時「ところでコルトレーンの未発表音源ってありますかね?ありましたらぜひ私に教えてください」と言ったら、何とその時のライヴ関係者が「あるよ」と手を挙げたらしい。

それから色々と紆余曲折を経て、藤岡氏必死の執念でニューオーリンズにてその未発表テープを発見。聴いてみたら「あぁ、これは演奏やレコーディングのクセからもう間違いなくコルトレーンのテンプル大学の演奏だ」となり、更に不明だったゲストメンバーの名前もデータにより判明。そこからはトントン拍子でコルトレーンが当時契約していたインパルスレコード(現ユニバーサル傘下)からCD化となりました。


コルトレーンの最晩年のグループといえば、本当に1年ちょっとしか活動出来なかった訳なので、こういった音源の発掘というのは嬉しいですよね。

で、この内容もまた気合いの入った演奏(コルトレーンのライヴに気合いの入ってないやっつけな演奏などないのだ)でありますので、単純に「未発表=マニア向け」という感じにはなっとらんのですよ。

さて内容に行きましょう。1966年11月11日のこの日、テンプル大学の特設ステージでコルトレーンが演奏したのは5曲。およそ1時間30分近くの熱いステージを、ほぼノンストップで演奏したことになっております。

メンバーは以下に記している6名のメンバー(バタ・ドラムのアルジー・ドゥイットはほぼレギュラーメンバーとして扱われておりました)と、よくジャム・セッションをしていて親交のあった2名のパーカッション奏者(一人はラシッド・アリの兄であるオマー・アリ)、そしてほとんど飛び入り的な参加となったテンプル大学の学生アルトによる計10名(アルトの2名はそれぞれ1曲づつのゲスト参加なので実質9名)という大所帯。

ライヴはコルトレーンの十八番ともいえる名バラード『ナイーマ』で厳かに幕を開けます。この時期のコルトレーンの特徴として「元々の愛奏曲を、原型が分からないぐらいに分解して吹きまくる」というのがありますが、この『ナイーマ』も最初からアドリブで、原曲の印象的なテーマは一切出てきません。

沸騰しながら沈み込むような、熱く思いソロを6分吹くコルトレーンの後に続くのは、アリスのこちらも重く荘厳なピアノ・ソロ。左手で叩き付けるコードはかなりヘヴィですが、右手のカラコロと転がる鍵盤はまるでハープの響きのようで、独特の不思議な陶酔感に満ち溢れておりますね。

アリスのピアノソロも大体6分ぐらい続いて、エンディングもコルトレーンがアドリブから最後の最後にようやく『ナイーマ』のテーマを吹いて終了。

続く『クレッセント』も、1964年のアルバム『クレッセント』で演奏された荘厳なバラード曲ですが、こっちの方はファラオも参加して、かなりぶっ飛んだ26分の長尺演奏。コルトレーンが静かに短いオープニングを奏でてすぐにファラオの「キュルキュルキュルキュル...ゴギャアアァアアァァ!!」な、フリーキーサックスへとソロがチェンジ。そしてファラオが内蔵も吐き出さんかのように7分吹きまくった後に沈鬱だけれどもしっとりとした気品のあるアリスのピアノ、盛り上がり出すパーカッション部隊、そのアリスのソロの途中から、フリーキーなんんだけどちょいと音にトゲがないサックスがソロを吹き出すのですが、これがアーノルド・ジョイナーでしょうかね?そしてコルトレーンが今度は落ち着いた貫禄に溢れるソロを吹いて祝祭の26分が終了。Disc-1はおしまいです。


で、Disc-2のなんですが、コチラも曲目の『レオ』は既発でしたが、未発表だった『オファリング』『マイ・フェイヴァリット・シングス』が、これまぁよくぞ発掘されましたと言いたくなる素晴らしい内容でありますよ。

1曲目はコルトレーン晩年のグループの看板曲ともいえる『レオ』これは曲自体もー激しいやつですね、飛び跳ねるテーマに続いてファラオ・サンダースのぶっ壊れテナーが火を噴きます。ファラオが盛り上がってる5分過ぎぐらいから、何か後ろでオーオー雄叫びを上げてるやつがいると思ったら、それが途中からリフを吹くテナーの音に代わりしれっとピッコロに代わります。

多分これ、コルトレーンですよね。

で、ファラオが10分大絶叫して(!)ドラムとパーカッションのソロ。コルトレーンのこの時期のライヴというのは一言で言い表せば「祝祭」なんですが、そのムードはドラムとパーカッションが速射砲のように放つリズムが醸してる部分が凄く多いですよねと一人納得。

で、このパーカッションアンサンブルの後半、また謎のヴォイスが

「レーオ!オレロレロエーア!!オエオレロリラエーーーーアーーー!!」

と、謎の部族の唄みたいなものをいきなりおっぱじめたかと思ったら、そこからファラオとは違う、誰が聴いてもコルトレーンなテナーが吹きまくり始めます。

てことはこの唄とさっきの謎ヴォイス、絶対コルトレーンだよね!?

はい、やっぱりコルトレーンでした。原田和典著『コルトレーンを聴け!』によると、当時の取材記事の説明で

「コルトレーンは自分の胸を叩きながら叫びだした」

とあるそうで、想像するだけで物凄いシーンが胸にドカンと炸裂しますね。

本作ハイライトといえる『レオ』の、祝祭と狂乱の21分29秒が終わり、つづく『オファリング』は、アリスのピアノをバックに、コルトレーンが静かで美しいメロディを祈るようにしめやかに吹く短い演奏。途中からそれまでずっと聞こえなかったソニー・ジョンソンなる謎のベーシストの音がやおら前に出てきてベースソロ、そして『マイ・フェイヴァリット・シングス』!!

『マイ・フェイヴァリット・シングス』も、実はこの最晩年のグループの手にかかると、ほぼ原型をとどめないゴリッゴリのフリー・ジャズになってしまうことがよくあります。が、この『マイ・フェイヴァリット・シングス』はちょいと違います。

3分ちょいのベースソロから「バーン!」と出てくるコルトレーンのオープニングのアドリブから”あの”テーマが、実にカッコ良くメロディアス(!)更に粋であります。いや〜、このアルバム、最初から最後まで激烈で重厚な展開が胸を圧迫するような快感にもだえるライヴかと思ったら、ここに来てこういう”とっつき”があるから凄くいい!

もちろんこの時期特有のフリーキーに突っ走る演奏、アタシは中毒者と言ってもいいぐらい大好きなんですが、2枚組でこの展開のラスト付近にこういった「曲のメロディ」に胸をひっつかまれると、つい予測してなかった快感にクラクラきちゃいますね。

もちろんコルトレーンのテーマを受けてハードに鍵盤を鳴らすアリス、その後に出てくるフリーなアルト(ちょいと素人っぽいから多分コレが学生そのAのスティーヴ・ノブロックでしょう)、を受けてのコルトレーンのリミッター外れた感満載のソプラノも怒涛ですし、演奏も23分とかなり長めなのですが、この『マイ・フェイヴァリット・シングス』は、60年代半ばまでのカルテットの演奏(ニューポートのやつとか)を彷彿させる”うた”に溢れております。最後のテーマもしっかりとコルトレーンは吹いて、万雷の拍手と共にライヴは終了。






Offering

【パーソネル】
ジョン・コルトレーン(ts,ss,fl,vo)
ファラオ・サンダース(ts,piccolo)
アリス・コルトレーン(p)
ソニー・ジョンソン(b)
ラシッド・アリ(ds)
アルジー・ドゥイット(bata drum)
(追加メンバー)
アーノルド・ジョイナー(as,Disc-1A)
スティーヴ・ノブロック(as,Disc-2B)
オマー・アリ(perc)
チャールズ・ブラウン(perc)

【収録曲】
(Disc-1)
1.ナイーマ
2.クレッセント
(Disc-2)
1.レオ
2.オファリング
3.マイ・フェイヴァリット・シングス

(録音:1966年11月11日)



ライヴ・アルバムとしては本当に興奮と感動が入り混じる、素晴らしい演奏でありますが、やや難点を上げると録音スタッフがプロのエンジニアではなく、素人のコンサートスタッフだったために、音質は良好なのですが、バランスが上手く取れてなくて、バックの音がフロントに比べて弱く、特にソニー・ジョンソンのベースが演奏中全く埋もれております。

とはいえ、録音機材はかなり良いやつっぽく、プライベート録音にありがちなノイズや音の曇りはほとんどない音質ですので、たとえば『ライヴ・イン・ジャパン』や『オラトゥンジ・コンサート』が難なく聴ける人なら、まぁそんな気にせんでもいいかという演奏内容であります。

で、この演奏には2つ大きな謎があります。

ひとつはこのソニー・ジョンソンなる謎のベーシストなんですよね、この時期のコルトレーン・グループのベースといえば、ジミー・ギャリソンなんですが、一説によるとコルトレーンは新しいサウンドを求めるあまり、付き合いの長いギャリソンを実はクビにしたがっていて、事ある毎にキツく当たっていたとか。

そういう話はつい最近どこかのサイトで読んだし、そういえば来日公演の時も同行したコルトレーンの熱狂的ファンの新井さんという人も「ギャリソンは何だかしょっちゅうコルトレーンに怒られてた。演奏の時酒を飲むのが気に入らなかったらしく、今度やったらクビだとか言われてた」と証言しております。多分コルトレーンのそういうキツい態度に耐え切れなくてライヴに出れなくなった時があったて、その時の代役がこのソニー・ジョンソンだったんじゃないでしょうかと思うのですが、何をどう調べてもこのソニー・ジョンソンがどういったベーシストだったかという詳細なデータが出てきません。唯一ライヴ資料に「1966年末に行われた、オーネット・コールマンと共同プロデュースによって行われたニューヨークのヴィレッジ・シアターで行われたコンサートに、ジミー・ギャリソンと連名のもう一人のベーシストとして”ソニー・ジョンソン”の名前があります。

それと、やっぱりどう聴いてもドラムがですね、ラシッド・アリっぽくないんですよ。

アリのドラムといえば他のどのアルバムでも、不定形ビートで細かいスネアの連打を中心に「ザザザザー!」と打撃を拡散してゆく、かなりフリーフォームなスタイルでありますが、このライヴ”だけ”どうも定型に寄ったビートの叩き方をしているんですよね。不定形になりかける場面もありますが、基本的に軸がしっかりとした4ビート寄りなんです。

だから『オラトゥンジ・コンサート』のような”終始カオス”な感じにはならず、特に『マイ・フェイヴァリット・シングス』なんかが物凄く原型をとどめている演奏になっている。これが物凄く謎ですね。

ラシッド・アリによると「あぁ、あのライヴの時はオレじゃなくて弟のムハンマドが叩いてるよ」らしいのですが、クレジットにははっきりとラシッド・アリと書いてあり、謎が謎を呼びます。

まぁいつか最新のリマスター技術によって、音のバランスも調整されるでしょうし、演奏者の謎も解決されるという事を期待して、今はこの実に晩年のコルトレーンらしいディープで密度の濃い演奏に酔いしれましょう。

























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『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』


サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/

posted by サウンズパル at 22:18| Comment(0) | 大コルトレーン祭 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする