ディープなコラム こちらにも書いてます♪

2017年01月11日

チック・コリア リターン・トゥ・フォーエヴァー

5.jpg
チック・コリア/リターン・トゥ・フォーエヴァー

今年は酉年!ということで、ネット上では「酉(鳥)」にちなんだお気に入りのレコードやCDのジャケットを貼り付ける人などがたくさん居て、年明けから実に楽しく盛り上がりました。

アタシはすっかり乗り遅れてしまいましたが、パッと思いついた「鳥ジャケ」といえば、冒頭に貼り付けたチック・コリアの「リターン・トゥ・フォーエヴァー」のジャケ。

ファンの間では「カモメ」と呼ばれて親しまれておりますね。寒空と冷たそうな海の間を高速で飛んでいる海鳥の一瞬を写したこの写真は、とても美しいのですが、同時にキリリとした緊張感があります。素晴らしい。

若山牧水の短歌で

白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ

というのがありますが、アタシがこのジャケットを見て想起するのは、何となくそういう詩的でちょっと哀しい風景なんです。ぼうっと見入っていると、どこか彼方へ飛ばされてしまいそうな叙情の魔力みたいなものを持っているジャケット。

で、中身の方はどうなんだ?

と言われると、これがジャケットに全然負けてない深い詩的な内容なんです。

よく「70年代フュージョンの幕開けを告げた名盤」とかいううたい文句で紹介されることの多いこのアルバム、確かにフェンダーローズとエレキベースが音の中心にあるし、リズムもそれまでの”ジャズっぽい”チーチキな4ビートから凄まじく進化した16ビートが乱舞する訳で、そういう意味では一般に「ジャズの次の音楽」と思われてそーなフュージョンの、確かにこれは先駆けとなった作品、サウンドであることは間違いないんですが、チック・コリアがこの”リターン・トゥ・フォーエヴァー”(直訳すると”永遠に帰す”うひゃ!)というバンドで試みた「新しいジャズ、いや、もうジャズとかぶっちゃけ超えちゃっていいかも?」な、壮大なスケールで実験精神と幻想的音世界が交錯するこの音楽は、リリースから45年経って完全に「この音楽」で独立したと言っていいと思います。

「フュージョン」というのは、元々「融合」という意味の言葉です。

ジャズにおいて使われるようになったのは、1970年代。それまでやっていたアコースティックなモダン・ジャズに音楽的にもセールス的にも限界を感じるようになったミュージシャン達が、試みとしてソウルやロック、またはラテンやブラジリアン・ポップスの風味をジャズに取り入れて、更にそれをエレキギター(フルアコじゃなく、ソリッドボディの完全エレキ)やキーボードとかの電気楽器の音で、如何にも今っぽく聴こえるようにアレンジしようと、つまりはフュージョンというものは「ジャズじゃない音楽の要素をジャズに融合してみよう」というところから生じた呼び名です。

それが時代を経て「融合当たり前」になってきて、更にそれをどんどん聴き易いポップなものにしようとみんな頑張って、80年代には、ジャズの心得のある人達が演奏する、軽やかで爽やかなシティ・ミュージックのいちジャンルとして「フュージョン」が、完全に出来上がります。

で、物心付いたのが80年代になってからのアタシにとってフュージョンというのは、よくあちこちで耳にしていた、あの爽やかでいかにも屈託のない音楽のことでした。


【パーソネル】
チック・コリア(el-p)
ジョー・ファレル(fl,ss)
スタンリー・クラーク(b,el-b)
アイアート・モレイラ(ds,perc)
フローラ・プリム(vo,perc)

【収録曲】
1.リターン・トゥ・フォーエヴァー
2.クリスタル・サイレンス
3.ホワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ・トゥデイ
4.サムタイム・アゴー〜ラ・フィエスタ


だからどうしても、この冷え冷えとしたジャケットから「あのフュージョン」の音が全く想像できなかったんです。

で、ジャズを聴くようになってからの90年代後半頃のチック・コリアは、何だかジャズの世界の大物で、まぁこれは見た目からですが、とっても優等生に見えて、ギトギトでバリバリの(何じゃそりゃ?)を求めるアタシには、チック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァー、とても二の足を踏んだ一枚でした。

ところがある日、たまたま偶然このアルバムの1曲目「リターン・トゥ・フォーエヴァー」を耳にします。

ひたすら妖しいエレピに執拗なトランスリズム、思い詰めたようにメゾソプラノを張り上げるフローラ・プリムの、ひんやりとした狂気を感じさせるヴォーカル。涼しげながらも、ジトッとした湿度と独特の”圧”を伴うフルート、そして中盤から出てくる実にキリッと演奏全体を引き締める、ソリッドでキレキレのリズム。

「これだ!!」という感動と「これは!?」という衝動的な疑問が、アタシの中で激しくスパークしましたね。

これは確かにジャズなんだろうけど、今まで聴いたどのジャズとも違う刺激と哀愁と詩情と、それらが全部整然とした展開の知的な楽曲の中でごちゃ混ぜになって、どうしようもない中毒性を醸している音楽。

先輩に

「何ですか!?」

と訊けば

「チック・コリアだ」

と。

「いや、こんな妖しくドロドロでサイケでシビレる音楽が、チック・コリアとかそういう大メジャーな人のものであるはずがない!どっかブラジル辺りのインスト・サイケ・バンドかプログレのすごいやつだろう」

と食い下がるアタシ。

すると先輩

「バカだなぁ、チック・コリアって元々イカレてるだろ?エレクトリック・マイルスのバンドにいて、自分のバンドでピアノ弾く時はフリー・ジャズやってたようなヤツだぜ?」

と。


あぁ、それでもう何かすべてが腑に落ちました。

チック・コリア、70年代以前の活動は、確かにマイルスの、あのファンクとインドとドロドロがカオティックに炸裂する「オン・ザ・コーナー」なんかでエレピガンガンに弾いてたり、サークルとかいうトリオで、無調のアブナいピアノ弾いてたりしてました。

そのチック・コリアが、最初に「マトモになろう!」と思ったのがコレで、恐らくその時点での彼の中では「やったぜ、すごくポップなアルバム作ったよ!」だったはずです(実際フローラ・プリムがしっかり歌詞を唄うAとかCは、音は深遠だけどメロディはとても聴き易い。

私はこの音楽を「美しい」と思います。

澄みきった心象と混沌、静謐さと激しい躍動感、知性と狂気、その他あらゆるものが、絶えずせめぎあい、互いの世界を侵食しながらひとつの鮮烈な、誰も見たことのないような絵を描いていくリターン・トゥ・フォーエヴァーの音楽を美しいと思います。





(タイトル曲「リターン・トゥ・フォーエヴァー」何て妖艶で激しいんでしょう♪)


”チック・コリア”関連記事




『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:25| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月06日

ティナ・ブルックス トゥルー・ブルー

4.jpg
ティナ・ブルックス/トゥルー・ブルー
(Bluenote/EMIミュージック)

一度音を知ってしまってからというもの「その名前を聴くだけで、特別な感情が胸にじわっと溢れてきてグッとなる」という人がおります。

その名前はティナ・ブルックス。

ブルーノートにたった1枚のアルバムを残し、その後シーンから忽然と姿を消した「幻のテナーマン」と言われた人なんですが、そのプレイはど真ん中のモダン・ジャズ/ハード・バップのファンキーな味わいに溢れ、そのテナー・サックスの音色は、豊かなブルース・フィーリングに裏付けられたコクと、奥底からほんのり香る何ともいえない男の哀愁が全編に漂っており、これがもうたまりません。

最初に知ったのはいつだったか・・・。あぁ、思い出した。ジャズを聴き始めて、最初にカッコイイと思ったフリー・ジャズ系、それから後期コルトレーンやアルバート・アイラー、アーチー・シェップ経由で集め出したImpulse!レコードのアルバムなんかを集めている時急に

「そろそろフリー・ジャズ系のものを聴いてみたい、何聴けばいいんだろう?BLUENOTEって一番有名らしいんだけど、やっぱりこの辺から聴けばいいのかなぁ?」と思い立ち、ソニー・クラークの「クール・ストラッティン」やジャッキー・マクリーンの「スウィング・スワング・スウィンギン」など、一通りモダン・ジャズの名盤と呼ばれているものを聴き始めてみました。

そん時は「ブルーノート=アンダーグラウンドなジャズに対しての大メジャー。何か派手で明るいの多そう」と、偏見(汗)を持っていたんですが、いざ聴いてみたブルーノートのアルバムはどれも、ドストライクなジャズであると同時に、ブルースやR&Bなどの”渋いエッセンス”をものすごく濃厚に感じさせるものが多くて

「いや、ブルーノート何か思ってたよりダークでいいじゃん、ブルースじゃん♪」

と、ひとしきり感動したんですね。

色々聴いて気に入ったのが実はハンク・モブレイ。

この人の音色は、これはもう好きな人は「ああわかる」の類だと思います。派手さは一切ないんだけど、丸みのある豊かな音色と洗練されたブラックなフィーリングで、どの音源に参加していても「あ、いい味出してるテナー」とオイシイ存在感を醸してますよね。

「うん、ハンク・モブレイ。コルトレーンとかシェップと全然真逆でまたそれがいいぞ。こういうテナーの人他にいないかしらん」

と、雑誌をパラパラめくっていた時に出会ったのがティナ・ブルックスでした。

例によって

・幻のテナーマン

・でもそのプレイは実に良質なモダンジャズの”小粋”を体現するものである

・真にジャズを愛する人は、そのプレイから滲み出るR&Bやゴスペルのエッセンスと奥深い哀愁のとりこになるはずだ

とか、ジャズ聴き始めのアタシの心をとてもくすぐる文章と共に、生前残した唯一のリーダー作「トゥルー・ブルー」と、死後に未発表音源を集めてリリースされた「バック・トゥ・ザ・トラックス」、その他参加したすべてのセッション作品が丁寧に紹介されておりました。

「これは聴かねば」って当然なりますよね。

で、ジャズ雑誌にそそのかされるままに買ったのがまずは唯一のリーダー作である「トゥルー・ブルー」




【パーソネル】
ティナ・ブルックス(ts)
フレディ・ハバード
デューク・ジョーダン
サム・ジョーンズ
アート・テイラー

【収録曲】
1.グッド・オールド・ソウル
2.アップ・タイツ・クリーク
3.ドリスのテーマ
4.トゥルー・ブルー
5.ミス・ヘイゼル
6.ナッシング・エヴァー・チェンジズ・マイ・ラヴ・フォー・ユー


結論から言ってしまってアレなんですが、このアルバムがもう「大当たり」でした。

ブルーノートというレーベルの特徴をザックリといえば

「ファンキー大好き!」

「哀愁大好き!」

の一言に尽きると思うんです。

更にザックリ言えば、この2つの要素がしっかり入ってるアルバムが、ブルーノートの”当たり”です。

有名アーティストとか、売れたとか、そんなのは関係ありません。そもそもが「ブラック・ミュージック大好きおじさん」である、オーナーのアルフレッド・ライオンが「君いいね」と思ったミュージシャンに声をかけて、相性の良い、または良さそうなミュージシャンをスタジオに集め、スタジオでは満足行くまでじっくりとレコーディングさせる。

特に50年代60年代のブルーノートは、そんなライオンさんの愛と、それに最高の演奏で応えるミュージシャンの愛。そして共通する「ジャズのルーツであるブルースやリズム・アンド・ブルース、ゴスペルに対する愛」で彩られておるんです。

で「トゥルー・ブルー」。

ティナ・ブルックスの個性は「吹き過ぎないことが個性」と言えます。

ややハスキーな、くぐもった音色でもって、その語り口で聴かせるテナー。元々はR&Bのバンドでキャリアを積んだだけあって、そのフレーズはモダンだけれどもその場面でも隠しきれないブルースのやるせなさが、特にミディアムテンポの哀愁系ナンバーではジワジワジワジワと染みてます。

そんなブルックスの味わいに、絶妙なサポートで合わせるバックもまた見事、くすんだブルックスのトーンに合わせて頷くように抑制の効いたソロを展開するフレディ・ハバード、”哀愁系ファンキーピアノ”の若干”哀愁”が強めのデューク・ジョーダン、堅実にフロントを引き立てながら、味わいの部分を柔らかに拡げるサム・ジョーンズのベースとアート・テイラーのドラムス。

この、ブルックスの音色に寄り添っていい演奏を作り上げているバックとのチームワークが素晴らしいんですね。細かいことを色々と言うよりは、そのアーシーかつどこかやるせない雰囲気に「いいわぁ・・・」と酔うべきジャズ、それがティナ・ブルックスでありますね。







(こういう影のあるミステリアスなハードバップ、カッコイイですね。音色も合ってます♪)


”ティナ・ブルックス”関連記事


『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:08| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月03日

アート・ファーマー ブルースをそっと歌って

5.jpg
アート・ファーマー/ブルースをそっと歌って
(Atlantic/ワーナー)

改めまして皆さま、あけましておめでとうございます。

今年の正月は幸いにして3日までお休み、それでもまぁ親戚事でバタバタしますが、実家に預けてあるアナログレコードをいくつか自宅に持ってきて、久々にアナログ祭りをしました。

アナログで聴きたかったのは、古いジャズやブルースです。特にこだわりという訳ではないのですが、例えば1950年代とか60年代の音楽が「プチ、プチ」というスクラッチノイズと共にスピーカーから流れてくる嬉しさに、意識をのへ〜っと委ねて良い感じの”聴き初め”が出来ました。

気持ちを一新して、本日から2017ヴァージョンで、皆様にグッド・ミュージックをご紹介致します♪

さて、本日ご紹介致しますのは、アタシのアップアップしていた忙しない年末の日常を救ってくれたこの一枚。





【パーソネル】
アート・ファーマー(fln)
スティーヴ・キューン(p)
スティーヴ・スワロウ(b)
ピート・ラ・ロカ(ds)

【収録曲】
1.ブルースをそっと歌って
2.アド・インフィニタム
3.プチ・ベル
4.ティアーズ
5.アイ・ウェイテッド・フォー・ユー
6.ワン・フォー・マジッド


はい、ジャズですよ♪ そのジャズの世界には”良心”と呼べるアーティストが何人かおります。

たとえば誰もが知るマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンのように、革新的なスタイルを打ち立てて、ジャズの歴史を大きく変えた訳でもない。でも、その人のプレイには、何ともいえない人間的な味わいの深さがあり「そうだ、今日はジャズでも聴こう」という、聴く人の淡い感情に優しく応えてくれる人。

実はジャズを聴く上で大事な・・・というか「飽きることなくずっとこの音楽を好きでいよう」と思わせてくれるのは、この辺りの”良心”な方々のプレイがとっても胸にじわんとかほわんとかくるからに他なりません。

で、アート・ファーマーです。

アート・ファーマーはトランペッター、でもトランペットとほとんど同じ構造ながらより柔らかな音がするフリューゲル・ホルンを得意として、50年代からライオネル・ハンプトン・オーケストラやホレス・シルヴァー・クインテット、ジェリー・マリガン・カルテットとか、それから忘れてはならないファーマー=ゴルソンの”ジャズテット”などなど、結構輝かしい経歴の持ち主なんですが、その音色は端正であくまで控えめ、アドリブラインは慎重に音を選んだ知性に溢れるものであり、管楽器奏者としては珍しく、どちらかというと主役を張ってバリバリ吹きまくるタイプというよりは、個性的な共演者のいるグループでちょっといい味を出す、或いはリーダーになっても全体のアンサンブルを重視しながらの、非常に調和の取れた美しいソロで、聴く人に素敵な安心感をもたらすタイプの演奏家なんです。

そんなファーマーのリーダー作で、アタシがこよなく愛するのがこの「ブルースをそっと歌って」です。

うん、幻想的なジャケットがとてもいいですよね。中身もジャケットのイメージを裏切らない、とても美しくてクールな抒情に溢れております。

ファーマーのフリューゲルホルンは、ひたすらなめらかに美旋律を紡いでおりますし、硬質で余計なものを一切廃したスティーヴ・キューンのピアノと、彼のトリオのメンバーであるスティーヴ・スワロウ、ピート・ラ・ロカの繰り出すリズムも、熱さや激しさを内に秘めながらもメロディアス。

ところがこれ、よくよく聴いておりますと、バックのスティーヴ・キューン・トリオの演奏が、実におかしい。いやいや、正確には”知的に狂ってる”と言っていいでしょう。ファーマーの吹くテーマにしっとりと寄り添いながら、そのタイミングを微妙にずらしながら乖離して行き、ソロとなると完全にキレてるピアノ。



(3曲目「プチ・ベル」こらもうとことん切ない)


”アート・ファーマー”関連記事



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 08:30| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月21日

チェット・ベイカー 枯葉

4.jpg
チェット・ベイカー/枯葉
(CTI/キングレコード)

チェット・ベイカーのアルバムを、さて紹介しようと思って聴いていたら、その美しい「ほろびの香気」に、すっかりヤラレてしまい、ここのところまんまとチェット・ベイカー漬けです。

麻薬が原因で、何度も何度も引退しては復帰するを繰り返していたチェットですが、1988年にホテルの窓から転落という不慮の死を迎えるまで、実に膨大な数の作品を残していて、流石にアタシも全部までは耳を通してはおりませんが、今まで聴いたアルバムの中で「これはつまらない」というものに出くわしたことがありません。

どのアルバムも、この人独特の、柔らかく優しく、そして美しく破滅に向かっているあの感じで満たされていて、そしてこの人はデビューしてから晩年まで、スタイルが全く変わらないんです。

引退して復活するタイプのジャズマンというのは、その間演奏のアプローチや、或いは音色そのものが変化してることが多いんです。でも、チェットの場合は、引退して復活しても、または麻薬の影響で顔がショッキングに変わってしまっても(顔がしわしわになった上、歯も抜けていた)、スピーカーから聞こえるトランペットの音は相変わらず繊細で柔らかく、ハッとするようなアドリブは、煌めきと詩情に輝いていて、唄声も淡さの中に深く沈んだ陰影を感じさせる、あの幻想的な声のままです。

今日はそんなチェット・ベイカーの、後期のアルバムの中から名盤の誉れ高い「枯葉」です。




【パーソネル】
チェット・ベイカー(tp,voAE)
ポール・デスモンド(as)
ボブ・ジェームス(el-p)
ロン・カーター(b)
スティーブ・ガッド(ds,@〜C)
ジャック・デジョネット(ds,D〜F)
ドン・セベスキー (cond)

【収録曲】
1.枯葉
2シー・ワズ・トゥー・グッド・トゥ・ミー
3.ファンク・イン・ディープ・フリーズ
4.タンジェリン
5.我が心に歌えば
6.ホワットル・アイ・ドゥー
7.イッツ・ユー・オア・ノー・ワン


「枯葉」といえば、元々はシャンソンでありながら、ジャズで最も有名なスタンダードとして知られるようになった曲ですが、キャノンボール・アダレイの、実質マイルス・デイヴィスのアルバム「枯葉」を筆頭に、その後モダンジャズの甲乙付けがたい名演が次々世に出されます。

ビル・エヴァンス、サラ・ヴォーン、ウィントン・ケリー、あぁ、個人的にはドン・ランディやアーニー・ヘンリーも推したいな・・・などと、ジャズファンならば誰もが納得の名盤と「私のお気に入り枯葉」を色々浮かべて楽しめる、そんぐらいの曲なんですけどね。チェットのこの枯葉は、文句なしに前者、つまり「聴けば誰もが納得の名演」の枯葉です。

アタシの体験で恐縮ですが、音を聴く前は「きっとチェットが唄ってるんだ」と思ってました。そして50年代の録音のように、端正にスウィングする西海岸サウンドのストレートなジャズだと思ってました。

実際はチェットは唄わず(ヴォーカルはAとEの2曲だけ)、サウンドもいかにも70年代な、ややフュージョン入ってる現代的なアレンジでした。

これが70年代に一世を風靡したフュージョンの先駆けである"CTIレーベルの音"と知るのは大分後のことです。

微妙に王道の4ビートからは距離のある独特のリズムに、うっすらとストリングスの絡むアレンジに、全く反発することも迎合することもなく、ジャズのお手本のような、フレーズを重ねる毎に美しい、ふんわりと匂い立つアドリブを唄うチェットのトランペットは、これはもうジャズがどうとかいうよりも、音楽の美しさそのものを感じます。

もしも私がトランペッターで「理想の枯葉をやりなさい」と言われたら、多分このアドリブを完コピしてはいどうぞ、ってやるでしょうね。それぐらい完璧で美しく、非の打ち所のない演奏。しかもただ単に綺麗なだけでなく、そのフレーズの中には譜面では起こせない目一杯の悲哀がたっぷりとまぶされているんです。

バックが当たり前のジャズじゃない、特にスティーヴ・ガットのドラムは、ガンガンに攻めるタイプで、彼が最初は慎重に装飾を付けるのみに抑えてるのですが、途中から堰を切ったように情熱的に煽ってくるのがとにかくいいんですよ。

あと、ピアノでなくエレキピアノを弾いてるボブ・ジェームスもいいですね。フェンダーローズの甘い音色が美しい音楽と出会った時の中毒性の高さは、ビル・エヴァンスやチック・コリアの必殺技だと思ってましたが、チェットの退廃に寄り添うこのアルバムのエレキピアノ、かなり危険な美しさです。

とにかく「枯葉」は、チェット生涯の極めつけでありますが、「唄うチェット」の極めつけ「ホワットル・アイ・ドゥ」での、どこまでも沈み混む退廃美の、もう行き着く果てのようなやるせない唄とバックとのコンビネーションも筆舌に尽くしがたいものがあります。

いや、でもどの曲も、気持ちよく哀しさに浸れますので、チェットに少しでもハマりそうな予感を胸の内に抱えてどうしようと思っている人はコチラぜひ。




(この儚い儚いトランペットと、諦めに満ちたヴォーカル。でも美しい・・・)


”チェット・ベイカー”関連記事



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:05| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月20日

チェット・ベイカー・シングス

887.jpg
チェット・ベイカー・シングス
(Pacific Jazz)

チェット・ベイカー

1950年代にデビューし、その卓越したメロディアスさを誇るトランペットの演奏テクニックと、アイドル並みの端正なルックスに加え、中性的でアンニュイな独特な声の魅力でもって、その時代のジャズマンとしては桁外れの人気を誇った(あのマイルス・デイヴィスでさえ、レコードの売り上げでは桁違いの差を付けられていた)。

そんな時代の寵児でありながら、ミュージシャンとして世に出たその時から麻薬(ヘロイン)にドップリはまり、絵に描いたような転落の後、周囲を振り回し、巻き込み、傷付け、裏切り、ボロボロになって最期は自殺とも事故とも他殺とも取れる悲惨な人生の閉じ方をした。

・・・はい、只今イーサン・ホーク主演の映画「ブルーに生まれついて」が公開されておりまして、この映画を観たことで、主人公であるチェット・ベイカーやジャズという音楽に興味を持つ人が増えているようです。

良いことですね、素晴らしい。

ところでアタシ、ミもフタもないこと言っちゃいますが、ジャズって暗い音楽だと思うのですよ。

「えぇ!?ジャズはオシャレでノリノリで明るいじゃん、どーして?」

と言う方は多いと思いますし、それ否定しません。

でもね、ジャズにのめり込むと、何の前触れもなく、フッと気付くことがあるんです。自分はこのオシャレでスイングする音楽に、どこか不吉な"死"とか退廃の匂いを感じて、それを求めて聴いている。って。

特にジャズは、繊細で美しい演奏や表現をする人に、その傾向が顕著だったりします。

ビル・エヴァンスCDが何十回同じものが再発されても、変わらず売れ続け、ジャズ・ピアノで不動の人気No1.をずーっとキープしてるのも、やっぱり単純に彼の音楽性が普遍的で分かり易い、親しみ易いというよりも、彼のピアノのガラス細工のように美しいフレーズのそこかしこから、どうしようもないものが絶えず滲んでいて、好きな人は大体その"どうしようもないもの"の魅力にヤラレてしまって中毒になるからなんだと思います。

チェット・ベイカーも、アタシにとってはビル・エヴァンスと同質の"どうしようもないもの"の不吉な美しさを、オシャレとか軽やかとかそういった表向きの顔の裏側にたっぷりと持っている人だと思います。




【パーソネル】
チェット・ベイカー(vo,tp)
ラス・フリーマン(p,celeste)
ジェイムス・ボンド(b,@〜E)
カーソン・スミス(b,F〜M)
ピーター・リットマン(ds,@〜E)
ボブ・ニール(ds,F〜M)

【収録曲】
1.ザット・オールド・フィーリング
2.イッツ・オールウェイズ・ユー
3.ライク・サムワン・イン・ラヴ
4.マイ・アイディアル
5.アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォア
6.マイ・バディ
7.バット・ノット・フォー・ミー
8.タイム・アフター・タイム
9.アイ・ゲット・アロング・ウィズアウト・ユー・ヴェリー・ウェル
10.マイ・ファニー・ヴァレンタイン
11.ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー
12.ザ・スリル・イズ・ゴーン
13.アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー
14.ルック・フォー・ザ・シルヴァー・ライニング


「チェット・ベイカー・シングス」は、1954年から56年、ミュージシャンとしては最も元気だった時代に作られた「歌もの」のアルバム。

元々、トランペットでは10代の頃か並外れた実力で、何とチャーリー・パーカーのライヴに飛び入りしてバリバリに吹きまくって気に入られたという、折り紙付きでしたが、ライヴでは時々気分転換に唄うことがあり、それを聴いた女性客が、常にそのささやくような声にメロメロになっていたといいます。

レコード会社は、これを逃しませんでした。

「試しに」と吹き込んでシングルで発売した「バット・ノット・フォー・ミー」と「タイム・アフター・タイム」が大ヒット。

これがきっかけでブレイクしたチェットは「歌えるトランペッター」として、大々的に売り出されます。

実はチェットにとってヴォーカルは、ライヴの合間の、あくまで余技でしたが、いつの時代でも最も売れるのは歌手でありますし、本人の気持ちとは裏腹に、彼の声にはやはり、その繊細で儚い音色のトランペット同様、聴き手の理性をトロトロに溶かしてしまう、抗し難い魔力があります。

たとえば1曲目「ザット・オールド・フィーリング」での、小粋にスウィングしつつも、どこか思い詰めたような甘酸っぱい痛みがジワッと拡がる歌い出しの空気は何でしょう。3曲目「ライク・サムワン・イン・ラヴ」の、穏やかに凪いでいながら気が付くと聴き手の感情を柔らかく呑みこんでしまいそうな、この果てしない虚無感は何でしょう。声と共に、どこまでも深みに優しく堕ちてゆく「アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォア」や「ザ・スリル・イズ・ゴーン」での、ラス・フリーマンのピアノの、滅びの美に満ち溢れた情景を、どんな美しく狂おしい言葉に置き換えればいいでしょう。

もちろんこれを「オシャレで最高にクールなジャズ」として聴いて、聴き続けても全然間違いではないです。

でも、願わくばジャズに興味を持った方が、チェット・ベイカーのトランペットと唄に、ふんだんにまぶされた「毒の美味なること」にハマりますように。。。。







”チェット・ベイカー”関連記事



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 18:42| Comment(0) | TrackBack(0) | ジャズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする