ディープなコラム こちらにも書いてます♪

2017年01月18日

ソニー・ロリンズ・ウィズ・ザ・モダン・ジャズ・クァルテット

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ソニー・ロリンズ・ウィズ・ザ・モダン・ジャズ・クァルテット
(Prestige/ユニバーサル)

はい、本日も”ジョン・コルトレーンと並ぶ”といわれるモダン・ジャズ・テナー・サックス界の雄、ソニー・ロリンズです。

大体アタシは夏になると「大コルトレーン祭」をやっております。そん時はもう朝から晩まで見事なコルトレーン漬けになりますので、必然的にロリンズを聴くのは「コルトレーンの季節」が終わった、秋から冬にかけてが多い。

あ、はい。「何じゃそりゃ?意味わからん」と思ってる方も多いと思いますが、ごめんなさいね。あんまり深い意味はないんで「あぁ、コイツにとってはそんなもんなんだろーな」ぐらいに思っててくだされば幸いです。


幸いついでに、サクサクと本日のロリンズオススメ盤を紹介しましょうね♪

「ソニー・ロリンズ・ウィズ・ザ・モダン・ジャズ・クァルテット」という少々長いタイトルの、1枚の作品があります。

アタシもロリンズを知ってすぐの頃は「長いタイトルだなぁ」としか思ってなかった。

しかし!

これが、その後50年、いや60年以上も「モダン・ジャズ・テナーの巨人」として頂点に君臨する(2017年の時点でまだ現役。えぇぇえ!?)ソニー・ロリンズの、記念すべき初リーダー・セッションも含む、非常に重要かつ中身もすこぶつカッコイイ名盤であるんです。

はい、サクサクいきますよ〜。

まず@〜Cが、1953年10月7日の「ウィズ・ザ・モダン・ジャズ・クァルテット」のセッション。

ミルト・ジャクソン、ジョン・ルイス、パーシー・ヒース、ケニー・クラークの4人が組んだバンドが「モダン・ジャズ・クァルテット(通称MJQ)」で、これもまたモダン・ジャズでは知らない人はいないぐらい人気のグループなんですが、結成したばかりのそのMJQと、デビューしたばかりのロリンズを組み合わせた、元祖夢の企画なんです。

そしてD〜K、コチラはケニー・ドリュー、パーシー・ヒース、アート・ブレイキーと、当代きっての名手をガッツリバックに揃えた(ヒースは何とMJQ結成前)、ロリンズの記念すべき本格的な初リーダー作。オマケのように入ってるLは、同じくモダン・ジャズ黎明期の名人ドラマー、ロイ・ヘインズに、何とピアノでマイルス・デイヴィスが参加した、正真正銘の初セッション録音(リーダーという訳ではなかったみたい)です。

後半2つのセッションはいずれも1951年。

51年といえば40年代後半から一部のヒップな若いジャズマン達のものだったビ・バップが全体に浸透し、いよいよジャズが「モダン・ジャズ」と呼ばれて盛り上がっていた丁度その時。

ロリンズは何とこの時19歳です。



【パーソネル】
(@〜C)
ソニー・ロリンズ(ts)
ミルト・ジャクソン(vib)
ジョン・ルイス(p)
パーシー・ヒース(b)
ケニー・クラーク(ds)
(D〜K)
ソニー・ロリンズ(ts)
ケニー・ドリュー(p)
パーシー・ヒース(p)
アート・ブレイキー(ds)
(L)
ソニー・ロリンズ(ts)
マイルス・デイヴィス(p)
パーシー・ヒース(b)
ロイ・ヘインズ(ds)

【収録曲】
1.ザ・ストッパー
2.オール・モスト・ライク・ビーイング・イン・ラヴ
3.ノー・モウ
4.イン・ア・センチメンタル・ムード
5.スクープス
6.ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート
7.ニュークス・フェイド・アウェイ
8.タイム・オン・マイ・ハンズ
9.ディス・ラヴ・オブ・マイン
10.シャドラック
11.スローボート・トゥ・チャイナ
12.マンボ・バウンス
13.アイ・ノウ

はい、ここまで書いて

「モダン・ジャズって何よ?ロリンズ19歳でデビューしたとか言ってるけど何がそんなに凄かったのよ?」

と、お思いの方、多くいらっしゃることでしょう。サックリとご説明しましょうね。

まず、ビ・バップとかモダン・ジャズとか言っておりますが、これは物凄く乱暴にまとめてしまえば「ジャムセッションでの意地悪」がそもそもの始まりであります。

1920年代後半から30年代にかけて、実はジャズという音楽は、基本の形が早々と整っていたんです。

音楽というのは、大体がリズムと和音(コード)とメロディーで出来ておりますね。

ジャズの場合は、西洋起源の「長調(メジャー)と短調(マイナー)」のポピュラー音楽に、ちょっとだけ濁った響きの音(最初セブンス、後にナインスなど独特のコードをプラス)を加えて、拍子のカウントをずらした、いわゆるシンコペーションという、これまた独特の取り方でリズムを刻む。

つまり

「メジャーとマイナーを濁った響きで崩し、シンコペーションでリズムを刻んで、ソロイストがその上をアドリブでメロディー展開していけばジャズ」

という、今なお「ジャズ」という音楽を簡単に説明する時に使って全然OKな公式が、戦前にもう出来ておった。

作曲家や演奏家は「その上で独自の工夫を凝らす」ことで、ジャズは洗練と熟成への道を10年ぐらいかけてゆんわり歩いてたんですね。

ここに第二次世界大戦という出来事が起きて、若いミュージシャン達も兵隊に行ったりして、よほどの人気バンドであってもビッグバンドを維持するのが難しくなってきた。

だからミュージシャン達は小さな編成でやらざるを得なくなって「アドリブの個人技」と「ビッグバンドの迫力に対抗できるスピード感」に興味と感心を払うようになったんです。

で「なんか新しいことやろうぜ」と、思い立った連中の中で、とりわけ楽器が上手くてセンスのある連中が、わざと展開を難しくしたり、テンポを鬼のように早くしたり、不協和音ギリギリの難しいコードをの中にぶっこんだりして、ジャムセッションを繰り広げていました。

この、難しかったり早かったりする新しいジャズが「ビ・バップ」です。

楽器が上手くてセンスのある連中は、他の連中をやっつけるためにこの技法を編み出したと言われています。

さてさて、この「新しいジャズ」の演奏で、最も人々の度肝を抜いたのが、アルト・サックスのチャーリー・パーカーという人なんです。

彼の登場によって、それ以降のサックス吹きがみんなパーカーみたいになっちゃったと言われる程影響力があり、そのフレーズは鮮烈なものでしたが、パーカーが編み出したその奏法を、テナー・サックスでほぼ完璧に吹きこなし、かつそれだけじゃない、何かこう、テナーの新しくてカッコイイ表現をやってくれそうな予感を、聴く人にビンビン感じさせていたのがこの時期の、ハタチそこらの若いロリンズです。


ふー・・・。

さっくり行くつもりが、分かりやすく説明しようとするとどうしても回りくどくなってしまうのは、アタシの筆力不足もありますが、この時代のジャズはそんぐらいめまぐるしく進化していて、ミュージシャンの層も厚かったと思っていただければ幸いです。

演奏を聴いてみましょう。

どのセッションでもこの時代一流の凄いメンツをバックに、ロリンズは堂々たる吹きっぷりで、なおかつ音もズ太く、淀みなくスラスラ出てくるアドリブに圧倒されます。

そしてこのアルバムの真の聴き所、そしてロリンズを心底「凄い」と思わせる秘密兵器は、皆さん、バラードですよ。

アタシはこのアルバムに入ってる「イン・ア・センチメンタル・ムード」という曲が大好きなんです。

きっかけは、作曲者のデューク・エリントンが、何とジョン・コルトレーンと一緒に演奏しているヴァージョンを聴いて、泣くほど感動したからなんですが、このロリンズの「イン・ア・センチメンタル・ムード」には、ひたすら繊細でキュンとくるコルトレーンのそれとはまた違う、オリジナルのエリントンのヴァージョンで、ジョニー・ホッジスのアルトが紡ぐ、優雅で幻想的なそれとも違う、実に男らしい優しさと憂いと色気に満ち溢れた、このアルバムでのロリンズの演奏を耳にして男泣きしました。

これは"渋い"どころじゃない、いや、こんなふくよかでドラマチックなバラードは、熟練の名手でもそうは吹けんじゃないか。もちろん若造は言うに及ばず何ですが


・・・本当にハタチそこらの新人が吹いてんのか!?そこまで思います。今でも思います。

えぇ、ロリンズのアルバムの中でも、デビュー作ではありますが、聴けば聴くほどに深まる味わいはびっくりするほどふんだんに散りばめられていると思います。






(「イン・ア・センチメンタル・ムード」何というスケールの大きな素晴らしいバラードでしょう)



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2017年01月16日

アート・テイタム〜ベン・ウェブスター・クァルテット

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アート・テイタム〜ベン・ウェブスター・クァルテット
(Pablo/ユニバーサル)

鍵盤に指がタッチした瞬間に「ふわぁっ」と拡がる、上質なフィーリング。

その可憐でいて力強いソロが終わると同時に「ス・・・ススス・・・」と、たっぷりの吐息の中に目一杯の男の哀愁を詰め込んで鳴らされる、優しい優しいテナー・サックス。

あぁ・・・いいなぁ・・・、こんなのが聴きたかったんだ・・・。

もう何百回針を落として聴いているはずなのに、聴く度に泣かされる。そして、聴いた後はまるで恋の病にでもかかったかのように、ポーっとして言葉が何も出てこなくなる。

これですよ。

「ジャズってなぁに?」

って訊かれたら、色んな答え方、色んなたとえがそれこそ出てはくるのですが

「ジャズを聴いた時、すごくいいなぁと思うんだけど、どこか切なくなって胸が苦しくなる。そんなのが聴きたい。ある?」

って訊かれたら、アタシはもう何も言わずにこのアルバムを聴いてもらいます。

ピアノのアート・テイタムと、テナー・サックスのベン・ウェブスター。

それぞれ戦前のスウィング・ジャズが華やかだった頃から活躍し、どちらも素晴らしいテクニックと、独特のサウンドの”強さ”で、イケイケの名手の名を欲しいままにした、いわばその時代のスーパーヒーローです。

そんな2人が、晩年ともいえる1956年に、スタジオで再会し、繰り広げたこのセッションは、人生の酸いも甘いも知り尽くした男たちによる、静かで深い音楽がゆったりした時空を漂うバラード・アルバム。

アタシは普段から、これはモダン・ジャズだのビ・バップだの、フリーだのフュージョンだの何だの言いますが、コレに関してはそんな細かくてしちめんどくさいカテゴライズなど一切不要です。

ただもう上質な音と空気に酔いしれて、聴く人すべてが言葉を失えばいい。遠い目をした先に淡く浮かぶジャズの切なさ、秘めた狂おしさの幻影を、名手達が奏でる音のその向こうに見ればいい。そう思います。





【パーソネル】
アート・テイタム(p)
ベン・ウェブスター(ts)
レッド・カレンダー(b)
ビル・ダグラス(ds)

【収録曲】
1.風と共に去りぬ
2.オール・ザ・シングス・ユー・アー
3.ジョーンズ嬢に会ったかい?
4.マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ
5.ナイト・アンド・デイ
6.マイ・アイデアル
7.ホエア・オア・ホエン
8.風と共に去りぬ(別テイク1)
9.風と共に去りぬ(別テイク2)
10.ジョーンズ嬢に会ったかい?(別テイク)


ひとつだけ、テイタムのピアノについて述べさせてください。

このアルバムは、ほぼミディアムスロウのバラードアルバムなんですが、テイタムのピアノは、”美しい”とは言っても、決して綺麗なメロディや上辺の情緒に流れていません。

むしろガンガンに速いフレーズを繰り出して弾きまくっているんですが、何がどうなってそうなっているのか、演奏全体がとても優雅で気品に満ちた空気で覆われています。これは本当に何がどうなっているのか解りません。戦前のスイング時代を生きてきた人にしか出せない香気です。

あと、レッド・カレンダーのベースとビル・ダグラスのドラムスの、絶対に目立とうとしないけど、実はものすごくしっかり演奏の屋台骨を支えているリズムも見事です。こういうサポートは、技術があるから出来るといった類いのことではありません。





(いつ聴いても涙腺にクる「オール・ザ・シングス・ユー・アー」です。この音色、この”間”この雰囲気、もう何も言うことありません)



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2017年01月12日

ソニー・ロリンズ ウェイ・アウト・ウエスト

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ソニー・ロリンズ/ウェイ・アウト・ウエスト
(CONTEMPORARY/ユニバーサル)

まず、ジャケットがいいですね〜。カウボーイの格好をした男前なロリンズが、テナー抱えて「どうだ!」みたいな顔でカッコ良く写ってるこのジャケ。

大体ジャズのレコードといえば、ジャズマンがスーツ着て、楽器を吹いたり弾いたりしてる、実に自然に”キマッた”ワンシーンか、オシャレなロゴをビシッとこう配置したものが、50年代とか60年代は割と多くて、てかほとんどがそのパターンで、確かにそのパターンのジャケットはジャズのジャケットとしては一番普通にカッコイイとは思うんですが、たまにこういう意表を突いたパターンのやつがあって、それがとても印象に残るから、ジャズのジャケット鑑賞というのはやめられないんですね。

だから「このジャケいいな!」と思ったやつは、中身わからんでも買っといてまず損はないです。聴きましょうね〜。

はい、え〜と、そういうことで、今日はソニー・ロリンズの「ウェイ・アウト・ウエスト」をご紹介しました。



・・・え?

早い?


はいすいません。

だってこのアルバム、ホントにカッコ良くて、ともかく「全体的にいい!」の代表みたいな名盤なもんで、アタシとしては「まぁお聴きなさい、すごくいいから」で、自分一人で感動しちゃって、それからの言葉がなかなか出てこないんですよ。

・・・あー、いけませんね。このブログは「取り上げる音盤を聴いたことのない人にもキチンと魅力を伝えよう」という主旨のブログなので、はい、ちゃんと解説しましょうね。



【パーソネル】
ソニー・ロリンズ(ts)
レイ・ブラウン(b)
シェリー・マン(ds)

【収録曲】
1.俺は老カウボーイ
2.ソリチュード
3.カム・ゴーン
4.ワゴン・ホイールズ
5.ノー・グレイター・ラヴ
6.ウェイ・アウト・ウエスト


ソニー・ロリンズは、ジャズではもうお馴染みの、モダン・ジャズ・テナーの代表格であります。

まー、そんなことよく知らんという人に説明致しますと、モダン・ジャズという音楽がハッキリと定着した1950年代の初めに若くしてデビューしたロリンズは、何が凄かったかというと、19だかそこいらでシーンに出てきた時は既に「これ!」という自分のスタイルを、ほぼ完成させていたんです。

何を完成させていたかというと、これは音色とスピーディーなアドリブですね。

どっしりとしたテナーらしい音で、しかも最新の素早いコード・チェンジにスラスラ乗れるアドリブをまだ若いロリンズが何か知らんが余裕で吹けるもんだから、世間はびっくりした訳ですね。

そんなロリンズは、ニューヨークを拠点に活躍していましたが、その名声は遠く西海岸まで知れ渡りました。

日本に住んでるアタシらには、ちょっとピンと来ない話かも知れませんが、アメリカにはニューヨークを中心とした東海岸の文化と、ハリウッドを中心とした西海岸の文化というものがあって、ジャズの世界でもそれぞれ独自のシーンを形成してしのぎを削っておりました。

で「それぞれのシーンのトップミュージシャン同士が共演する夢の企画」というのがあって、そういう企画のアルバムが出せることが、何となく一流の証みたいな風潮がありました。

この「ウェイ・アウト・ウエスト」も、そういった東西対抗夢の共演モノの1枚で、西海岸のレーベル「コンテンポラリー」が出しております。

東海岸からはロリンズと、オスカー・ピーターソンのトリオなどで活躍していたレイ・ブラウンのベース。西海岸からは人気の白人ドラマー、シェリー・マンが参加しております。

サウンド・キャラクターも「東=ズ太くコクがある/西=繊細で軽やか」と、いい感じに分かれておりますが、これが一緒に演奏するとなるとあら素敵、レイ・ブラウンの重心低く、程よい粘りと余韻のあるベースを真ん中に、ロリンズのパコーンと抜けの良いテナーが前、そしてシェリー・マンの、乾いたキレのあるドラムスがしっかり後ろに定位置を取ったこのバランスが最高です。


(これこれ♪)

「サックス+ベース+ドラムス」というトリオ編成は、ジャズではとても珍しいのですよ。

やっぱりピアノがいないと音がスカスカになるし、その分アドリブの技量がものすごい試されるのですが、そこはアドリブの天才ロリンズです。少ない伴奏、ピアノが奏でる和音の導きがないスカスカの空間を逆手に取って、おおらかでタメや間合いの絶妙なアドリブで、どんどん唄を紡いで行きます。

ちなみにコルトレーンもアルバム「ラッシュ・ライフ」でこのトリオ編成に挑んでいるのは、ロリンズに影響されたからと言われておりますね。言われてみれば録音年は同じ1957年でラッシュ・ライフの方がちょい後なんですね。


ロリンズの「パカーン!スコーン!」と抜けるテナーの明るい音色もいいなぁ。






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2017年01月11日

チック・コリア リターン・トゥ・フォーエヴァー

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チック・コリア/リターン・トゥ・フォーエヴァー

今年は酉年!ということで、ネット上では「酉(鳥)」にちなんだお気に入りのレコードやCDのジャケットを貼り付ける人などがたくさん居て、年明けから実に楽しく盛り上がりました。

アタシはすっかり乗り遅れてしまいましたが、パッと思いついた「鳥ジャケ」といえば、冒頭に貼り付けたチック・コリアの「リターン・トゥ・フォーエヴァー」のジャケ。

ファンの間では「カモメ」と呼ばれて親しまれておりますね。寒空と冷たそうな海の間を高速で飛んでいる海鳥の一瞬を写したこの写真は、とても美しいのですが、同時にキリリとした緊張感があります。素晴らしい。

若山牧水の短歌で

白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ

というのがありますが、アタシがこのジャケットを見て想起するのは、何となくそういう詩的でちょっと哀しい風景なんです。ぼうっと見入っていると、どこか彼方へ飛ばされてしまいそうな叙情の魔力みたいなものを持っているジャケット。

で、中身の方はどうなんだ?

と言われると、これがジャケットに全然負けてない深い詩的な内容なんです。

よく「70年代フュージョンの幕開けを告げた名盤」とかいううたい文句で紹介されることの多いこのアルバム、確かにフェンダーローズとエレキベースが音の中心にあるし、リズムもそれまでの”ジャズっぽい”チーチキな4ビートから凄まじく進化した16ビートが乱舞する訳で、そういう意味では一般に「ジャズの次の音楽」と思われてそーなフュージョンの、確かにこれは先駆けとなった作品、サウンドであることは間違いないんですが、チック・コリアがこの”リターン・トゥ・フォーエヴァー”(直訳すると”永遠に帰す”うひゃ!)というバンドで試みた「新しいジャズ、いや、もうジャズとかぶっちゃけ超えちゃっていいかも?」な、壮大なスケールで実験精神と幻想的音世界が交錯するこの音楽は、リリースから45年経って完全に「この音楽」で独立したと言っていいと思います。

「フュージョン」というのは、元々「融合」という意味の言葉です。

ジャズにおいて使われるようになったのは、1970年代。それまでやっていたアコースティックなモダン・ジャズに音楽的にもセールス的にも限界を感じるようになったミュージシャン達が、試みとしてソウルやロック、またはラテンやブラジリアン・ポップスの風味をジャズに取り入れて、更にそれをエレキギター(フルアコじゃなく、ソリッドボディの完全エレキ)やキーボードとかの電気楽器の音で、如何にも今っぽく聴こえるようにアレンジしようと、つまりはフュージョンというものは「ジャズじゃない音楽の要素をジャズに融合してみよう」というところから生じた呼び名です。

それが時代を経て「融合当たり前」になってきて、更にそれをどんどん聴き易いポップなものにしようとみんな頑張って、80年代には、ジャズの心得のある人達が演奏する、軽やかで爽やかなシティ・ミュージックのいちジャンルとして「フュージョン」が、完全に出来上がります。

で、物心付いたのが80年代になってからのアタシにとってフュージョンというのは、よくあちこちで耳にしていた、あの爽やかでいかにも屈託のない音楽のことでした。


【パーソネル】
チック・コリア(el-p)
ジョー・ファレル(fl,ss)
スタンリー・クラーク(b,el-b)
アイアート・モレイラ(ds,perc)
フローラ・プリム(vo,perc)

【収録曲】
1.リターン・トゥ・フォーエヴァー
2.クリスタル・サイレンス
3.ホワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ・トゥデイ
4.サムタイム・アゴー〜ラ・フィエスタ


だからどうしても、この冷え冷えとしたジャケットから「あのフュージョン」の音が全く想像できなかったんです。

で、ジャズを聴くようになってからの90年代後半頃のチック・コリアは、何だかジャズの世界の大物で、まぁこれは見た目からですが、とっても優等生に見えて、ギトギトでバリバリの(何じゃそりゃ?)を求めるアタシには、チック・コリアのリターン・トゥ・フォーエヴァー、とても二の足を踏んだ一枚でした。

ところがある日、たまたま偶然このアルバムの1曲目「リターン・トゥ・フォーエヴァー」を耳にします。

ひたすら妖しいエレピに執拗なトランスリズム、思い詰めたようにメゾソプラノを張り上げるフローラ・プリムの、ひんやりとした狂気を感じさせるヴォーカル。涼しげながらも、ジトッとした湿度と独特の”圧”を伴うフルート、そして中盤から出てくる実にキリッと演奏全体を引き締める、ソリッドでキレキレのリズム。

「これだ!!」という感動と「これは!?」という衝動的な疑問が、アタシの中で激しくスパークしましたね。

これは確かにジャズなんだろうけど、今まで聴いたどのジャズとも違う刺激と哀愁と詩情と、それらが全部整然とした展開の知的な楽曲の中でごちゃ混ぜになって、どうしようもない中毒性を醸している音楽。

先輩に

「何ですか!?」

と訊けば

「チック・コリアだ」

と。

「いや、こんな妖しくドロドロでサイケでシビレる音楽が、チック・コリアとかそういう大メジャーな人のものであるはずがない!どっかブラジル辺りのインスト・サイケ・バンドかプログレのすごいやつだろう」

と食い下がるアタシ。

すると先輩

「バカだなぁ、チック・コリアって元々イカレてるだろ?エレクトリック・マイルスのバンドにいて、自分のバンドでピアノ弾く時はフリー・ジャズやってたようなヤツだぜ?」

と。


あぁ、それでもう何かすべてが腑に落ちました。

チック・コリア、70年代以前の活動は、確かにマイルスの、あのファンクとインドとドロドロがカオティックに炸裂する「オン・ザ・コーナー」なんかでエレピガンガンに弾いてたり、サークルとかいうトリオで、無調のアブナいピアノ弾いてたりしてました。

そのチック・コリアが、最初に「マトモになろう!」と思ったのがコレで、恐らくその時点での彼の中では「やったぜ、すごくポップなアルバム作ったよ!」だったはずです(実際フローラ・プリムがしっかり歌詞を唄うAとかCは、音は深遠だけどメロディはとても聴き易い。

私はこの音楽を「美しい」と思います。

澄みきった心象と混沌、静謐さと激しい躍動感、知性と狂気、その他あらゆるものが、絶えずせめぎあい、互いの世界を侵食しながらひとつの鮮烈な、誰も見たことのないような絵を描いていくリターン・トゥ・フォーエヴァーの音楽を美しいと思います。





(タイトル曲「リターン・トゥ・フォーエヴァー」何て妖艶で激しいんでしょう♪)


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2017年01月06日

ティナ・ブルックス トゥルー・ブルー

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ティナ・ブルックス/トゥルー・ブルー
(Bluenote/EMIミュージック)

一度音を知ってしまってからというもの「その名前を聴くだけで、特別な感情が胸にじわっと溢れてきてグッとなる」という人がおります。

その名前はティナ・ブルックス。

ブルーノートにたった1枚のアルバムを残し、その後シーンから忽然と姿を消した「幻のテナーマン」と言われた人なんですが、そのプレイはど真ん中のモダン・ジャズ/ハード・バップのファンキーな味わいに溢れ、そのテナー・サックスの音色は、豊かなブルース・フィーリングに裏付けられたコクと、奥底からほんのり香る何ともいえない男の哀愁が全編に漂っており、これがもうたまりません。

最初に知ったのはいつだったか・・・。あぁ、思い出した。ジャズを聴き始めて、最初にカッコイイと思ったフリー・ジャズ系、それから後期コルトレーンやアルバート・アイラー、アーチー・シェップ経由で集め出したImpulse!レコードのアルバムなんかを集めている時急に

「そろそろフリー・ジャズ系のものを聴いてみたい、何聴けばいいんだろう?BLUENOTEって一番有名らしいんだけど、やっぱりこの辺から聴けばいいのかなぁ?」と思い立ち、ソニー・クラークの「クール・ストラッティン」やジャッキー・マクリーンの「スウィング・スワング・スウィンギン」など、一通りモダン・ジャズの名盤と呼ばれているものを聴き始めてみました。

そん時は「ブルーノート=アンダーグラウンドなジャズに対しての大メジャー。何か派手で明るいの多そう」と、偏見(汗)を持っていたんですが、いざ聴いてみたブルーノートのアルバムはどれも、ドストライクなジャズであると同時に、ブルースやR&Bなどの”渋いエッセンス”をものすごく濃厚に感じさせるものが多くて

「いや、ブルーノート何か思ってたよりダークでいいじゃん、ブルースじゃん♪」

と、ひとしきり感動したんですね。

色々聴いて気に入ったのが実はハンク・モブレイ。

この人の音色は、これはもう好きな人は「ああわかる」の類だと思います。派手さは一切ないんだけど、丸みのある豊かな音色と洗練されたブラックなフィーリングで、どの音源に参加していても「あ、いい味出してるテナー」とオイシイ存在感を醸してますよね。

「うん、ハンク・モブレイ。コルトレーンとかシェップと全然真逆でまたそれがいいぞ。こういうテナーの人他にいないかしらん」

と、雑誌をパラパラめくっていた時に出会ったのがティナ・ブルックスでした。

例によって

・幻のテナーマン

・でもそのプレイは実に良質なモダンジャズの”小粋”を体現するものである

・真にジャズを愛する人は、そのプレイから滲み出るR&Bやゴスペルのエッセンスと奥深い哀愁のとりこになるはずだ

とか、ジャズ聴き始めのアタシの心をとてもくすぐる文章と共に、生前残した唯一のリーダー作「トゥルー・ブルー」と、死後に未発表音源を集めてリリースされた「バック・トゥ・ザ・トラックス」、その他参加したすべてのセッション作品が丁寧に紹介されておりました。

「これは聴かねば」って当然なりますよね。

で、ジャズ雑誌にそそのかされるままに買ったのがまずは唯一のリーダー作である「トゥルー・ブルー」




【パーソネル】
ティナ・ブルックス(ts)
フレディ・ハバード
デューク・ジョーダン
サム・ジョーンズ
アート・テイラー

【収録曲】
1.グッド・オールド・ソウル
2.アップ・タイツ・クリーク
3.ドリスのテーマ
4.トゥルー・ブルー
5.ミス・ヘイゼル
6.ナッシング・エヴァー・チェンジズ・マイ・ラヴ・フォー・ユー


結論から言ってしまってアレなんですが、このアルバムがもう「大当たり」でした。

ブルーノートというレーベルの特徴をザックリといえば

「ファンキー大好き!」

「哀愁大好き!」

の一言に尽きると思うんです。

更にザックリ言えば、この2つの要素がしっかり入ってるアルバムが、ブルーノートの”当たり”です。

有名アーティストとか、売れたとか、そんなのは関係ありません。そもそもが「ブラック・ミュージック大好きおじさん」である、オーナーのアルフレッド・ライオンが「君いいね」と思ったミュージシャンに声をかけて、相性の良い、または良さそうなミュージシャンをスタジオに集め、スタジオでは満足行くまでじっくりとレコーディングさせる。

特に50年代60年代のブルーノートは、そんなライオンさんの愛と、それに最高の演奏で応えるミュージシャンの愛。そして共通する「ジャズのルーツであるブルースやリズム・アンド・ブルース、ゴスペルに対する愛」で彩られておるんです。

で「トゥルー・ブルー」。

ティナ・ブルックスの個性は「吹き過ぎないことが個性」と言えます。

ややハスキーな、くぐもった音色でもって、その語り口で聴かせるテナー。元々はR&Bのバンドでキャリアを積んだだけあって、そのフレーズはモダンだけれどもその場面でも隠しきれないブルースのやるせなさが、特にミディアムテンポの哀愁系ナンバーではジワジワジワジワと染みてます。

そんなブルックスの味わいに、絶妙なサポートで合わせるバックもまた見事、くすんだブルックスのトーンに合わせて頷くように抑制の効いたソロを展開するフレディ・ハバード、”哀愁系ファンキーピアノ”の若干”哀愁”が強めのデューク・ジョーダン、堅実にフロントを引き立てながら、味わいの部分を柔らかに拡げるサム・ジョーンズのベースとアート・テイラーのドラムス。

この、ブルックスの音色に寄り添っていい演奏を作り上げているバックとのチームワークが素晴らしいんですね。細かいことを色々と言うよりは、そのアーシーかつどこかやるせない雰囲気に「いいわぁ・・・」と酔うべきジャズ、それがティナ・ブルックスでありますね。







(こういう影のあるミステリアスなハードバップ、カッコイイですね。音色も合ってます♪)


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