ディープなコラム こちらにも書いてます♪

2017年01月03日

アート・ファーマー ブルースをそっと歌って

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アート・ファーマー/ブルースをそっと歌って
(Atlantic/ワーナー)

改めまして皆さま、あけましておめでとうございます。

今年の正月は幸いにして3日までお休み、それでもまぁ親戚事でバタバタしますが、実家に預けてあるアナログレコードをいくつか自宅に持ってきて、久々にアナログ祭りをしました。

アナログで聴きたかったのは、古いジャズやブルースです。特にこだわりという訳ではないのですが、例えば1950年代とか60年代の音楽が「プチ、プチ」というスクラッチノイズと共にスピーカーから流れてくる嬉しさに、意識をのへ〜っと委ねて良い感じの”聴き初め”が出来ました。

気持ちを一新して、本日から2017ヴァージョンで、皆様にグッド・ミュージックをご紹介致します♪

さて、本日ご紹介致しますのは、アタシのアップアップしていた忙しない年末の日常を救ってくれたこの一枚。





【パーソネル】
アート・ファーマー(fln)
スティーヴ・キューン(p)
スティーヴ・スワロウ(b)
ピート・ラ・ロカ(ds)

【収録曲】
1.ブルースをそっと歌って
2.アド・インフィニタム
3.プチ・ベル
4.ティアーズ
5.アイ・ウェイテッド・フォー・ユー
6.ワン・フォー・マジッド


はい、ジャズですよ♪ そのジャズの世界には”良心”と呼べるアーティストが何人かおります。

たとえば誰もが知るマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンのように、革新的なスタイルを打ち立てて、ジャズの歴史を大きく変えた訳でもない。でも、その人のプレイには、何ともいえない人間的な味わいの深さがあり「そうだ、今日はジャズでも聴こう」という、聴く人の淡い感情に優しく応えてくれる人。

実はジャズを聴く上で大事な・・・というか「飽きることなくずっとこの音楽を好きでいよう」と思わせてくれるのは、この辺りの”良心”な方々のプレイがとっても胸にじわんとかほわんとかくるからに他なりません。

で、アート・ファーマーです。

アート・ファーマーはトランペッター、でもトランペットとほとんど同じ構造ながらより柔らかな音がするフリューゲル・ホルンを得意として、50年代からライオネル・ハンプトン・オーケストラやホレス・シルヴァー・クインテット、ジェリー・マリガン・カルテットとか、それから忘れてはならないファーマー=ゴルソンの”ジャズテット”などなど、結構輝かしい経歴の持ち主なんですが、その音色は端正であくまで控えめ、アドリブラインは慎重に音を選んだ知性に溢れるものであり、管楽器奏者としては珍しく、どちらかというと主役を張ってバリバリ吹きまくるタイプというよりは、個性的な共演者のいるグループでちょっといい味を出す、或いはリーダーになっても全体のアンサンブルを重視しながらの、非常に調和の取れた美しいソロで、聴く人に素敵な安心感をもたらすタイプの演奏家なんです。

そんなファーマーのリーダー作で、アタシがこよなく愛するのがこの「ブルースをそっと歌って」です。

うん、幻想的なジャケットがとてもいいですよね。中身もジャケットのイメージを裏切らない、とても美しくてクールな抒情に溢れております。

ファーマーのフリューゲルホルンは、ひたすらなめらかに美旋律を紡いでおりますし、硬質で余計なものを一切廃したスティーヴ・キューンのピアノと、彼のトリオのメンバーであるスティーヴ・スワロウ、ピート・ラ・ロカの繰り出すリズムも、熱さや激しさを内に秘めながらもメロディアス。

ところがこれ、よくよく聴いておりますと、バックのスティーヴ・キューン・トリオの演奏が、実におかしい。いやいや、正確には”知的に狂ってる”と言っていいでしょう。ファーマーの吹くテーマにしっとりと寄り添いながら、そのタイミングを微妙にずらしながら乖離して行き、ソロとなると完全にキレてるピアノ。



(3曲目「プチ・ベル」こらもうとことん切ない)


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2016年12月21日

チェット・ベイカー 枯葉

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チェット・ベイカー/枯葉
(CTI/キングレコード)

チェット・ベイカーのアルバムを、さて紹介しようと思って聴いていたら、その美しい「ほろびの香気」に、すっかりヤラレてしまい、ここのところまんまとチェット・ベイカー漬けです。

麻薬が原因で、何度も何度も引退しては復帰するを繰り返していたチェットですが、1988年にホテルの窓から転落という不慮の死を迎えるまで、実に膨大な数の作品を残していて、流石にアタシも全部までは耳を通してはおりませんが、今まで聴いたアルバムの中で「これはつまらない」というものに出くわしたことがありません。

どのアルバムも、この人独特の、柔らかく優しく、そして美しく破滅に向かっているあの感じで満たされていて、そしてこの人はデビューしてから晩年まで、スタイルが全く変わらないんです。

引退して復活するタイプのジャズマンというのは、その間演奏のアプローチや、或いは音色そのものが変化してることが多いんです。でも、チェットの場合は、引退して復活しても、または麻薬の影響で顔がショッキングに変わってしまっても(顔がしわしわになった上、歯も抜けていた)、スピーカーから聞こえるトランペットの音は相変わらず繊細で柔らかく、ハッとするようなアドリブは、煌めきと詩情に輝いていて、唄声も淡さの中に深く沈んだ陰影を感じさせる、あの幻想的な声のままです。

今日はそんなチェット・ベイカーの、後期のアルバムの中から名盤の誉れ高い「枯葉」です。




【パーソネル】
チェット・ベイカー(tp,voAE)
ポール・デスモンド(as)
ボブ・ジェームス(el-p)
ロン・カーター(b)
スティーブ・ガッド(ds,@〜C)
ジャック・デジョネット(ds,D〜F)
ドン・セベスキー (cond)

【収録曲】
1.枯葉
2シー・ワズ・トゥー・グッド・トゥ・ミー
3.ファンク・イン・ディープ・フリーズ
4.タンジェリン
5.我が心に歌えば
6.ホワットル・アイ・ドゥー
7.イッツ・ユー・オア・ノー・ワン


「枯葉」といえば、元々はシャンソンでありながら、ジャズで最も有名なスタンダードとして知られるようになった曲ですが、キャノンボール・アダレイの、実質マイルス・デイヴィスのアルバム「枯葉」を筆頭に、その後モダンジャズの甲乙付けがたい名演が次々世に出されます。

ビル・エヴァンス、サラ・ヴォーン、ウィントン・ケリー、あぁ、個人的にはドン・ランディやアーニー・ヘンリーも推したいな・・・などと、ジャズファンならば誰もが納得の名盤と「私のお気に入り枯葉」を色々浮かべて楽しめる、そんぐらいの曲なんですけどね。チェットのこの枯葉は、文句なしに前者、つまり「聴けば誰もが納得の名演」の枯葉です。

アタシの体験で恐縮ですが、音を聴く前は「きっとチェットが唄ってるんだ」と思ってました。そして50年代の録音のように、端正にスウィングする西海岸サウンドのストレートなジャズだと思ってました。

実際はチェットは唄わず(ヴォーカルはAとEの2曲だけ)、サウンドもいかにも70年代な、ややフュージョン入ってる現代的なアレンジでした。

これが70年代に一世を風靡したフュージョンの先駆けである"CTIレーベルの音"と知るのは大分後のことです。

微妙に王道の4ビートからは距離のある独特のリズムに、うっすらとストリングスの絡むアレンジに、全く反発することも迎合することもなく、ジャズのお手本のような、フレーズを重ねる毎に美しい、ふんわりと匂い立つアドリブを唄うチェットのトランペットは、これはもうジャズがどうとかいうよりも、音楽の美しさそのものを感じます。

もしも私がトランペッターで「理想の枯葉をやりなさい」と言われたら、多分このアドリブを完コピしてはいどうぞ、ってやるでしょうね。それぐらい完璧で美しく、非の打ち所のない演奏。しかもただ単に綺麗なだけでなく、そのフレーズの中には譜面では起こせない目一杯の悲哀がたっぷりとまぶされているんです。

バックが当たり前のジャズじゃない、特にスティーヴ・ガットのドラムは、ガンガンに攻めるタイプで、彼が最初は慎重に装飾を付けるのみに抑えてるのですが、途中から堰を切ったように情熱的に煽ってくるのがとにかくいいんですよ。

あと、ピアノでなくエレキピアノを弾いてるボブ・ジェームスもいいですね。フェンダーローズの甘い音色が美しい音楽と出会った時の中毒性の高さは、ビル・エヴァンスやチック・コリアの必殺技だと思ってましたが、チェットの退廃に寄り添うこのアルバムのエレキピアノ、かなり危険な美しさです。

とにかく「枯葉」は、チェット生涯の極めつけでありますが、「唄うチェット」の極めつけ「ホワットル・アイ・ドゥ」での、どこまでも沈み混む退廃美の、もう行き着く果てのようなやるせない唄とバックとのコンビネーションも筆舌に尽くしがたいものがあります。

いや、でもどの曲も、気持ちよく哀しさに浸れますので、チェットに少しでもハマりそうな予感を胸の内に抱えてどうしようと思っている人はコチラぜひ。




(この儚い儚いトランペットと、諦めに満ちたヴォーカル。でも美しい・・・)


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2016年12月20日

チェット・ベイカー・シングス

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チェット・ベイカー・シングス
(Pacific Jazz)

チェット・ベイカー

1950年代にデビューし、その卓越したメロディアスさを誇るトランペットの演奏テクニックと、アイドル並みの端正なルックスに加え、中性的でアンニュイな独特な声の魅力でもって、その時代のジャズマンとしては桁外れの人気を誇った(あのマイルス・デイヴィスでさえ、レコードの売り上げでは桁違いの差を付けられていた)。

そんな時代の寵児でありながら、ミュージシャンとして世に出たその時から麻薬(ヘロイン)にドップリはまり、絵に描いたような転落の後、周囲を振り回し、巻き込み、傷付け、裏切り、ボロボロになって最期は自殺とも事故とも他殺とも取れる悲惨な人生の閉じ方をした。

・・・はい、只今イーサン・ホーク主演の映画「ブルーに生まれついて」が公開されておりまして、この映画を観たことで、主人公であるチェット・ベイカーやジャズという音楽に興味を持つ人が増えているようです。

良いことですね、素晴らしい。

ところでアタシ、ミもフタもないこと言っちゃいますが、ジャズって暗い音楽だと思うのですよ。

「えぇ!?ジャズはオシャレでノリノリで明るいじゃん、どーして?」

と言う方は多いと思いますし、それ否定しません。

でもね、ジャズにのめり込むと、何の前触れもなく、フッと気付くことがあるんです。自分はこのオシャレでスイングする音楽に、どこか不吉な"死"とか退廃の匂いを感じて、それを求めて聴いている。って。

特にジャズは、繊細で美しい演奏や表現をする人に、その傾向が顕著だったりします。

ビル・エヴァンスCDが何十回同じものが再発されても、変わらず売れ続け、ジャズ・ピアノで不動の人気No1.をずーっとキープしてるのも、やっぱり単純に彼の音楽性が普遍的で分かり易い、親しみ易いというよりも、彼のピアノのガラス細工のように美しいフレーズのそこかしこから、どうしようもないものが絶えず滲んでいて、好きな人は大体その"どうしようもないもの"の魅力にヤラレてしまって中毒になるからなんだと思います。

チェット・ベイカーも、アタシにとってはビル・エヴァンスと同質の"どうしようもないもの"の不吉な美しさを、オシャレとか軽やかとかそういった表向きの顔の裏側にたっぷりと持っている人だと思います。




【パーソネル】
チェット・ベイカー(vo,tp)
ラス・フリーマン(p,celeste)
ジェイムス・ボンド(b,@〜E)
カーソン・スミス(b,F〜M)
ピーター・リットマン(ds,@〜E)
ボブ・ニール(ds,F〜M)

【収録曲】
1.ザット・オールド・フィーリング
2.イッツ・オールウェイズ・ユー
3.ライク・サムワン・イン・ラヴ
4.マイ・アイディアル
5.アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォア
6.マイ・バディ
7.バット・ノット・フォー・ミー
8.タイム・アフター・タイム
9.アイ・ゲット・アロング・ウィズアウト・ユー・ヴェリー・ウェル
10.マイ・ファニー・ヴァレンタイン
11.ゼア・ウィル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー
12.ザ・スリル・イズ・ゴーン
13.アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー
14.ルック・フォー・ザ・シルヴァー・ライニング


「チェット・ベイカー・シングス」は、1954年から56年、ミュージシャンとしては最も元気だった時代に作られた「歌もの」のアルバム。

元々、トランペットでは10代の頃か並外れた実力で、何とチャーリー・パーカーのライヴに飛び入りしてバリバリに吹きまくって気に入られたという、折り紙付きでしたが、ライヴでは時々気分転換に唄うことがあり、それを聴いた女性客が、常にそのささやくような声にメロメロになっていたといいます。

レコード会社は、これを逃しませんでした。

「試しに」と吹き込んでシングルで発売した「バット・ノット・フォー・ミー」と「タイム・アフター・タイム」が大ヒット。

これがきっかけでブレイクしたチェットは「歌えるトランペッター」として、大々的に売り出されます。

実はチェットにとってヴォーカルは、ライヴの合間の、あくまで余技でしたが、いつの時代でも最も売れるのは歌手でありますし、本人の気持ちとは裏腹に、彼の声にはやはり、その繊細で儚い音色のトランペット同様、聴き手の理性をトロトロに溶かしてしまう、抗し難い魔力があります。

たとえば1曲目「ザット・オールド・フィーリング」での、小粋にスウィングしつつも、どこか思い詰めたような甘酸っぱい痛みがジワッと拡がる歌い出しの空気は何でしょう。3曲目「ライク・サムワン・イン・ラヴ」の、穏やかに凪いでいながら気が付くと聴き手の感情を柔らかく呑みこんでしまいそうな、この果てしない虚無感は何でしょう。声と共に、どこまでも深みに優しく堕ちてゆく「アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォア」や「ザ・スリル・イズ・ゴーン」での、ラス・フリーマンのピアノの、滅びの美に満ち溢れた情景を、どんな美しく狂おしい言葉に置き換えればいいでしょう。

もちろんこれを「オシャレで最高にクールなジャズ」として聴いて、聴き続けても全然間違いではないです。

でも、願わくばジャズに興味を持った方が、チェット・ベイカーのトランペットと唄に、ふんだんにまぶされた「毒の美味なること」にハマりますように。。。。







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2016年12月14日

セロニアス・モンク ザ・ユニーク

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セロニアス・モンク/ザ・ユニーク
(Riverside/ユニバーサル)

さて、「プレイズ・デューク・エリントン」でRiversideからデビューし直したセロニアス・モンクでしたが、このレコード、これまで出した彼の作品の中ではまあまあ売れた方ではありましたが、モンクの名を広く世間に知らしめるまでには至りませんでした。

「うう〜んセロニアス、これは困った。俺はアンタの演奏は素晴らしいと思う。がしかし世間にはまだまだ上手く伝わってはいないみたいだ・・・」

レーベルオーナーのオリン・キープニュースは頭を抱えます。

「ふぅん、そうかぁ・・・(それならそれで別に構わんが、そろそろ自分で作った曲をレコーディングしたいなぁ)。」

「聞いてるかセロニアス?」

「あぁ、聞いてなくはないよ」

「レコードが売れないことには話にならないんだよ、次のレコードを作るにも資金が要る」

「(だからオリジナルをレコーディングさせてくれ)へぇ、そういうものかね・・・」

「次のレコーディングなんだが、スタンダード集にしようと思うんだ。もちろんトリオでね」

「う〜ん、私はオリジナルをやりたいんだ。サックスも入れて欲しい。曲はもう出来ている・・・」

「それは次のセッションじゃダメかな?」

「気持ちは分かるがまずはスタンダードだ」

てな具合に、揉めたかどうかは解りませんが、多分揉めたでしょう。しかしやはり先立つものがないと曲の発表どころではありません。モンクはスタンダードでアルバムを作る事に同意してスタジオに入ります。

そうして出来上がったアルバムに、キープニュースは「ザ・ユニーク」というタイトルを付けてレコードにしました。

このユニークには

「セロニアス・モンクって面白いよ」

という意味と

「さあ聴いてくれ、ここに収められているのはみんながよく知るスタンダードだ、しかしね奥さん、ただのスタンダードじゃあないんだよ。えぇ、並の弾き方じゃない、一度聴いたら忘れられないこれはちょいと変わった他じゃあ聴けないユニークなスタンダード・アルバムだぁ」

という二重の意味を込めたんだと思います。



【パーソネル】
セロニアス・モンク(p)
オスカー・ペティフォード(b,@B〜F)
アート・ブレイキー(ds,@B〜F)

【収録曲】
1.ライザ
2.メモリーズ・オブ・ユー
3.ハニーサックル・ローズ
4.ダーン・ザット・ドリーム
5.二人でお茶を
6.ユー・アー・トゥー・ビューティフル
7.ジャスト・ユー、ジャスト・ミー


実際に、モンクはおなじみのスタンダード・ナンバーを、のっけから"ハズし"も"崩し"も"ズラし"も全開の、まるで曲を一回完全にどかーんと壊して楽しく組み直したような、そりゃもうオリジナルにしか聴こえないようなゴキゲンな演奏に終始していまして、ホントに痛快です。

メンバーは前作から引き続きのオスカー・ペティフォードと、Riversideでは初共演ですが、実はモンクとは以前からちょくちょく共演したり、セッションではモンクやミルト・ジャクソンと共謀して、わざと複雑なリズムやバッキングを編み出して、ホーン奏者達を困らせて喜んでいたアート・ブレイキー。

本作ではこのブレイキーの煽りまくるやんちゃなドラムが、モンクの「スタンダード、やりたい放題」に見事に火を点けてます。

1曲目からハイテンポで不協和音も"フレーズのぶった斬り"も炸裂してて笑いが止まらんのですが、ハイライトはファッツ・ウォーラー作の「ハニーサックルローズ」。

ファッツ・ウォーラーはモンクも直接影響を受けた「ぶんちゃっ、ぶんちゃっ♪」のストライド・ピアノの名人ですが、モンクの奇妙によじれながらの「ぶんちゃっ、ぶんちゃっ♪」のキケンな香りのプンプン漂うカッコ良さ/疾走感が、もうアホみたいに中毒性高いのですよ。

と、思わせつつ、淡々と美しいバラードの「ダーン・ザット・ドリーム」や「ユー・アー・トゥー・ビューティフル」など、ドキッとさせる演奏もしっかりとあり「ハチャメチャなようで実は深い」「哲学的な破天荒」なモンクの魅力は全編で炸裂しています。

それにしてもモンクの弾くスタンダードはまるでモンクが作った曲であるかのように斬新で刺激的ですね。

「なんて豊かな音楽だろう」

聴く度にそう思います。



(この外れたバネがピョンピョンしてる感!ペティフォードのベースソロもよろしいなぁ♪)


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2016年12月13日

セロニアス・モンク・プレイズ・デューク・エリントン

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セロニアス・モンク・プレイズ・デューク・エリントン
(Riverside/ユニバーサル)

思えば2016年後半は「チャーリー・ラウズ強化月間」でした

ラウズのテナーマンとしてのカッコ良さと、セロニアス・モンクのバンドでの「堅実で忠実な若頭ぶり」の両方をじっくりと時間をかけて聴き比べ、レビューにしていくことで、多くの方々に「おぉ、チャーリー・ラウズってそんなカッコイイのか、じゃあ聴いてみようかな?」と思ってくれるところまで何とか行けたんじゃないでしょうか。

や、そこまでまだ多くの人に興味を持って頂けてなくても、ジャズの歴史をそんなに激しく揺さぶりはしなかったけれども、良質な”ジャズ気分”の味わえる演奏を生涯プレイしつづけたこの素晴らしいテナー吹きのことを、更に多くの人に知ってもらうための啓蒙活動は、無視されようが笑われようが今後も続けて行きたいと思いますので、皆さんどうかひとつよろしくお願いします。

で、ラウズの演奏聴きたさに、60年代以降のモンクの演奏を、ここんとこ暇を見ては聴いていました。

その、楽しさと軽やかさ、そして淡々とした表情の中に拡がる何やら超然とした深遠な世界の魅力には、聴く度にすっかり心ほだされてしまうんですが、そこでぼぅっとなっている時に、ふと1950年代、つまり初期のモンクを聴きたくなりました。

今日、しとしとと冷たい雨の中、車でず〜っと聴いていたのは、1955年作の「プレイズ・デューク・エリントン」。

モンクが世に認められるきっかけとなった、リバーサイド・レーベルからの第一作目なんですねぇ。

実はモンク、40年代の初めから活躍していた「結構腕のいいピアニスト」でした。

音源がないので何とも言えませんが、実際に演奏を観た人達の証言によると「アート・テイタムのように、右手左手を駆使してノリノリのスピードで弾きまくるテクニカルなピアノ」だったようです。

そんなモンクは40年代後半に、ジャズの全く新しいスタイル、そう"ビ・バップ"の誕生に深く関わり、スタイルを一変。

ビ・バップといえば、初期バド・パウエルみたいな、高度なフレーズを超高速で弾きまくるあのスタイルでありますが、バドはいわばモンクの弟子です。ところが師匠のモンクは、ビ・バップが生まれるやいなや、自分一人でとっとと"次"へ行きました。

リズムを更に独自のアクセントと"間"で、一端ブチ壊して新たに作り上げたような、更にわざとハズした音を効果的に混ぜ込んで、聴く人の耳にたくさんの不思議を刻み込む、あの独特のスタイルを、完全に作り上げ「よし、俺はもうコレで行くぞ」と決めちゃったんですね。

モンクは今でこそ「ワン&オンリーのスタイルを築き上げ、後のジャズに大きな影響を与えた」とか言われてますが、当時は流行のビ・バップのような、単純明快なノリを求めるリスナーの理解を得ることは出来ず、活動も低迷してました。

そんなモンクの演奏を「いや、分かりやすいし面白い!」と、最初に認めたのは、ブルーノート・レーベルのオーナー、アルフレッド・ライオンです。

ライオンは47年から52年までモンクのレコーディングを続け、2枚のアルバムを出しましたが、これがほとんど売れず、また、モンクもバド・パウエルを庇って麻薬不法所持の疑いで逮捕され、ニューヨークでの演奏許可証を没収されてしまいます。

失意のモンクはフランスでソロ・ピアノ・レコーディングを行ったり、Prestigeレコードで"小遣い稼ぎ"のレコーディングを行うも、普段は奥さんの稼ぎで生活しながら、ひたすら自宅でピアノの練習と作曲に精を出しておりました。

そんな不遇のモンクにある日転機が訪れます。生活苦のためにモンクは友人や音楽関係者からちょこちょこ借金をしていましたが、その中にリバーサイドという小さなレコード会社のオーナーで、オリン・キープニュースという人がおりました。

この人が「なぁモンク、カネはいいからウチでレコーディングしないかい?」と声を掛けたのが、モンクにとっては運命の一言でありました。

オリン・キープニュースは、モンクの才能を理解していた数少ない音楽関係者だったんですね。そしてPrestigeで飼い殺しみたいな扱いを受けていたモンクを何とかしてやりたかった気持ちもあったでしょう。

モンクはキープニュースの言葉に乗ってPrestigeとの契約を消化してRiversideに移籍します。

ここから初期モンクの名盤が沢山生まれ、それが今の正当な評価にも一気に繋がってくるんですが、キープニュースのモンクの売り出し方は、最初は意外にも慎重でした。

まず、モンクの余りにも強すぎる個性。これは認知されれば最大の強みにはなるでしょうが、いかんせん他の演奏家とアプローチが違い過ぎます。

それにジャズの世界では、やはりウケるのはスタンダードや、有名ミュージシャンが作曲してヒットさせた曲です。いきなり無名のアーティストがオリジナルばかり発表しても、ほとんど聴かれることなく、モンクにはまた「売れないレコード」を作らせてその繰り返しになるでしょう。

キープニュースは言いました。

「セロニアス、オリジナルを演りたい気持ちは分かるし、オレもアンタの曲は好きなんだが、まずはアンタのピアノを多くの人に聴いてもらう事からはじめないか?」




【パーソネル】
セロニアス・モンク(p)
オスカー・ペティフォード(b,@〜EG)
ケニー・クラーク(ds,@〜EG)

【収録曲】
1.スウィングしなけりゃ意味ないね
2.ソフィスティケイテッド・レディ
3.アイ・ガット・イット・バッド
4.黒と茶の幻想
5.ムード・インディゴ
6.アイ・レット・ア・ソング・ゴー・アウト・オブ・マイ・ハート
7.ソリチュード
8.キャラヴァン


「どういう事かね?俺はオリジナルをやっちゃいかんのか」

「まぁ聞いてくれ、アンタは最も偉大なピアニストで、最も素晴らしい曲を多く書いてるジャズマンは誰だと思う?」

「決まってる、それはデュークだ。デューク・エリントン」

「尊敬している?」

「もちろんだ」

「何曲か弾けるかい?」

「当然だ」

「おお、素晴らしい!実にオリジナリティに溢れる演奏だ」

「言いたい事が段々分かってきたよ」

「それは嬉しいね、まずはデュークの曲でアルバムを作ろうか!」

という訳で出来上がった「セロニアス・モンク・プレイズ・デューク・エリントン」です。


内容はモンク独特の"ハチャメチャ"は割と抑えて、エリントンの素晴らしい楽曲を、モンクが詩的イマジネーションに溢れた解釈で、実に丁寧かつエレガントに弾いています。

バックを務めるのは、オスカー・ペティフォードとケニー・クラーク。

実はこの2人は、モンク同様ビ・バップ誕生に深く関わっていて、モンクとはその頃からセッションでよく遊んでいた仲。

つまり、この時代では珍しい「モンクが突然はっちゃけても、冷静に対処できるリズム隊」なんです。

このアルバムでは、二人は堅実な伴奏に撤しています。特に素晴らしいのはオスカー・ペティフォードのベース・プレイ。終始穏やかにリズムを刻んでいるだけなのに、何と存在感のある豊かな音色で、何て安定感のある太いグルーヴなんだろうと、聴いてて惚れ惚れしてしまいます。

モンクのピアノに関しては、本作はよく「個性が薄められた」と評されることも多いですが、果たしてそうでしょうか?"ハチャメチャ"は抑え気味と書きましたが、要所要所でしっかりと"間"と"絶妙なずらし"はしっかり聴いていて、決してモンクの個性がプロデュースによって削がれた感じはしません。

それにモンクの個性はハチャメチャだけにあらず、最初から斬新なメロディ解釈の裏に、しっかりとした古き良きジャズ特有のエスプリ、つまりワン・フレーズ弾いただけでむわぁっと立ち上る色気みたいなものがいつだってあるんです。





(このさり気ない崩し方と”間”ですよね〜、そしてしっかりスウィングしてます。カッコイイ♪)

「ソフィスティケイテッド・レディ」「黒と茶の幻想」「ソリチュード」などは、エリントン曲の中でも特に美しく、芳醇な香気の漂うナンバーですが、モンクのピアノがメロディを奏でた後に残る余韻の素晴らしい物語性に、まずはじっくり耳を傾けてみてください。

”セロニアス・モンク”関連記事



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