
プリンス/ザ・ヴォルト〜オールド・フレンズ・フォー・セール
(ワーナー)
またしても気が重いのですが訃報です・・・。
芸術の分野においては「天才は夭折する」というジンクスがありますが、プリンス57歳は若すぎると思うのです。
この人こそ70になっても80になってもアッと驚くような新作を、その他もろもろの話題と共に作り続けてくれるだろうと思っておりました。或いは90を過ぎてもキワドい衣装でステージに立ち続けてくれるものと思っておりました・・・。
プリンスに関して言えば、彼は自らの音楽性の根幹にネオソウルという核をしっかりと持っていて、それを常に熱く妖しくたぎらせていた。
でも「黒人音楽じゃない、ポップスだ!」とカッコ良く主張しつづけてそれをクオリティ面でもセールス面でも叶えた。
常に鮮烈な人だったと思います。
こんな知ったようなことをつらつらと書いておりますが、実はアタシはプリンスを「うぉおすげぇ!」と思ったのは、ハタチも過ぎてからのことです。
最初に知ったのは、確か中学か高校の時に、母親が「今日はプリンスのライヴをテレビでやるから観なきゃ!!」と、キャッキャはしゃいでいた時、そのライヴを一緒にせんべいを食べながら観た時でした。
「この人は凄いのよ、ソウルをここまで進化させた・・・天才よね」
とか
「ビデオに録っとかんと、今度はいつ来日するかわからんから・・・」
とか
もう女学生丸出しでアゲアゲなテンションになっている母親を横目に、ボヘーっとしながらせんべいをかじっていたのでありますが、思春期真っ盛りに観たプリンスのライヴは、これは親子で観るもんじゃないだろうというキワドい、有り体に申し上げれば実にエロい、そしてエグいステージで、それが最初に感じたプリンスの「鮮烈」です。
しかし、そのライヴの中で、おもむろに独自のデザインの、あの白いギターを持ち出して、やおや凄まじいソロを弾き出したプリンスの、それまでのステージでの中性的な振る舞いとは打って変わって男らしい、豪快で痛快に弾きっぷりに、二度目の「鮮烈」を浴びました。
そん時はソウルとかR&BとかファンクとかディスコとかAORとか、あらゆるもんが渾然一体となって、しかしどこか妖しさとか憂いと共に綴られているプリンスの音楽の情報量を、弱い頭が処理できなかったんですね。なのでアタシのその時のプリンス認識は
「おぉ、コイツなんかオカマみたいだけど、ギターは鬼だぞ!」
でした。
んで、ハタチを過ぎて音楽の先輩達とソウルやR&Bの話になった時
「いや、プリンスは正直今までちゃんと聴いたことはなかったんですけど、自分はあのギターはとにかく凄いなぁ・・と」
たどたどしく素直にそのギターの凄さについて口にして、思わず怒られるかと思ったのですが、心優しい先輩達は「それでいいんだ、プリンスは世界で一番過小評価されているギタリストなんだよ」と。
その時はブルース、ジャズときて、そろそろソウルも聴こうかなー?という時期で、色々とかじり聴きした中ではマーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイング・オン」とカーティス・メイフィールドのファーストが、ベタだけど凄くしっくり来た。
で、プリンスの初期から80年代のアルバムを聴いてみたら、これが思ってた以上にサックリと、その”カッコ良さ”が理解できて、ようやくですよね。ようやく「うぉお、プリンスってこんなすげー人だったんだ」と気付くに至りました。
訃報に接してから3日、アタシは「プリンスらしいアルバムを一枚、タラーっと聴こう」と決めまして、この3日ほどずっとこれです。
【収録曲】
1.ザ・レスト・オブ・マイ・ライフ
2.イッツ・アバウト・ザット・ウォーク
3.シー・スポーク・トゥ・ミー
4.5 ウィメン
5.ホウェン・ザ・ライツ・ゴー・ダウン
6.マイ・リトル・ピル
7.ゼア・イズ・ロンリー
8.オールド・フレンズ・フォー・セール
9.サラ
10.エクストラオーディナリー
このアルバムは、1999年にリリースされた(丁度アタシが「プリンスすげー」とようやくなった年)アルバムで、色々あって(つうかこの人に関しては”色々”ないほうが珍しい)所属していたワーナーとの契約を解消するためにリリースした未発表/レア・トラックス集なんですが、これがポップあり、セクシャルなR&Bあり、ジャズありで、ヘタをすればそんじょのベスト・アルバムよりも彼の魅力が濃厚に凝縮されとるんです。
朝から晩まで、コレを聴きながらユル〜く追悼してるわけなんですが、いや「どんなに出来がよくてもアルバムのコンセプトからちょっとでも外れる曲はアルバムには入れない」というプリンスの美学も、この”作品ではないレア・トラック集”を聴けば逆説的に染みますね。
「プリンスの名盤」と呼ばれるアルバムの条件は、いくつかあると思いますが、アタシなりにまとめると
・楽曲のバリエーションが豊富で、しかもそれらがキチンと流れに沿って散漫になってない
・繊細な裏声からソウルフルな地声まで、変幻自在な声の魔術師ぶりがたっぷりと味わえる
・鬼のギター・ソロが存分にフィーチャーされている
・自らこなす他の楽器も、あちこちでイイ味を出している
となります。
以上の条件を、このレア・トラックスで全て軽々と満たしておるところが、コノ人のおっそろしいところなんです。
作品の数も凄く多い人なので、まずはこれを聴いて、そこからベストなり名盤「パープル・レイン」とかに行ってもいいし、いや、でも最初期の”一人変態ファンク多重録音”モノもいいなぁ・・・と、とりとめがなくなりそうなので今日はこのへんで。。。
『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』
サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
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