ディープなコラム こちらにも書いてます♪

2017年01月05日

J.S.バッハ ピアノ作品集(アルゲリッチ)

887.jpg
J.S.バッハ/ピアノ作品集(アルゲリッチ)
(Grammophon/ユニバーサル)

ピアノをやっている人に話を聞くと

「もー、バッハやってる時が一番辛かった!」

と言います。

何でもバッハを弾く時は、もちろん間違えちゃダメ、その上で感情を込めないのはダメ、かといって感情を込め過ぎるのもダメ、譜面の支持通りに弾かないとピッチリ正確なリズムと強弱で作られた楽曲がてんでバラバラに聞こえてしまうからダメ。

・・・と、もうほんとに「ダメダメ尽くし」で大変なんだそうです。

バッハの何が大変かというとですね、聴いていると何となく分かるしさっきもチラッと言ったんですが、軸となる音符の長さがピッチリ均等に近いんですね。

しかも対位法といいまして(合ってるかしらん)、例えば右手がメインのフレーズをタラララと弾いている時に、左手は和音で伴奏じゃなくて、いわるゆ”ハモり”のフレーズを弾かにゃならん。

それも単純に均等にハモればいいというんじゃなくて、鳴っている音に対して均等に鳴らす時、駆け足で先導する時、やや遅れて輪唱みたいに絡まなければならない時・・・と、色々ありまして、もう読んでるだけでイヤでしょ?アタシも書いててやんなっちゃいます。

バッハの曲というのは、それだけ演奏する人によっては苦行なことこの上ない音楽なんですが、でも、だからこそ後の時代のクラシック全ての理論的な基礎となった訳ですし、ヘタすりゃジャズやロックに与えた影響は宇宙的だし、それより何より聴いていてこう特別なカタルシス、つまり今風の言葉で言えばちょっと特別なトリップ感とかトランス感とか、そういうのがいっぱい詰まった音楽の、これはもう最高峰に近いものなんですね、バッハは。

特にクラシック好きな訳でも何でもない人が「あ★*p×うぇ、バッハやばい・・・」と、中毒になってゆく生々しい現場をたくさん見てきているアタシとしては、全世界の「音楽聴いてぶっ飛びたい!」と思っている方には、こらもうハッパなんかよりバッハを・・・と、常日頃思っておりますが、あらいけないちょっと話が別の方向に行っちゃいそうだわということで話を強引に引き戻します。

バッハの、特にピアノ曲なんていうのは、それこそ本当に、例えばリストやらベートーヴェンやら、バッハよりもずっと後の時代の、構造的にとても複雑になった曲を弾く人達にとっても「とても難しい、ニュアンスを踏まえてエッセンスを出さねばならない」と、頭を抱えさせるものであるようで、特にバッハを弾くことに特化した「バッハ弾き」なる分野のピアニスト達がよく登場します。

有名どころではアンドラーシュ・シフ。この人はとても澄み切った音色と、スラスラと流れるような”正しい”演奏の中にしっかりと情感の味わいを感じさせる、いわば「誰も文句の付けようのないバッハ」を弾く人です。

一方でファンの多いのは、おなじみのグレン・グールド。この人の弾くバッハは、もう尾頭微々”独自の解釈”といっていいほど独創的で、でもアタシなんかはこの人のバッハの解釈というのは、ピアノが発明されていないバッハが実は本当にやりたかったことを天才ならではの洞察力と真面目な探究心で先読みして再現したのかなぁと思っております。

しばらくはアタシはこの両巨頭のピアノに親しみながら、バッハという素晴らしい音楽家の世界に浸ってのめり込んでトランスしてトリップしておりました。

といえばカッコイイのですが、実はあんまりクラシックに詳しくもないというのもあり、最初でいきなり「究極」を感じさせる2人の演奏を聴いてしまったので、他の人が弾くバッハは、ちょっと想像できなくて、手を出すのが正直怖かったというのはあります。

アルゲリッチのバッハを知ったのは”たまたま”でした。

アルゲリッチといえば、まずは何といってもショパンで、そのロマンティシズム溢れる楽曲に、相当な質量の情念をブチ込んで引きずり回すその壮絶な演奏に惚れていたアタシは、ある日何気に見たアルゲリッチのバッハのCDを見て「うわぁ、どんななんだろう・・・」と、しばらく想像を膨らませます。



【演奏】
マルタ・アルゲリッチ(p)

【収録曲】
(J.S.バッハ)
1.トッカータ ハ短調 BWV911
2.パルティータ 第2番 BWV826 Sinfonia
3.パルティータ 第2番 BWV826 Allemande
4.パルティータ 第2番 BWV826 Courante
5.パルティータ 第2番 BWV826 Sarabande
6.パルティータ 第2番 BWV826 Rondeau
7.パルティータ 第2番 BWV826 Capriccio
8.イギリス組曲 第2番 BWV807 Prelude
9.イギリス組曲 第2番 BWV807 Allemande
10.イギリス組曲 第2番 BWV807 Courante
11.イギリス組曲 第2番 BWV807 Sarabande
12.イギリス組曲 第2番 BWV807 Bouree I/II
13.イギリス組曲 第2番 BWV807 Gigue

サウンズパルでしばらく売れ残っていたCD、恐る恐る購入してみました。

はい「アルゲリッチが弾くバッハ」に関しては、あのバッハの楽曲を、アルゲリッチがガンガンに弾き倒す図しか想像できません。

更に恐る恐るCDをプレーヤーに入れてスタートボタンを押しました。


姐さん大変です・・・。


アルゲリッチ姐さんのバッハは、全く想像通りの「情念てんこ盛りのバッハ」。

しかし、その鍵盤にガンガン込められた激しい感情の質量は、アタシの予想なんざ軽く超えた、それはもうしばらく言葉を失うぐらいに凄まじいもの。

「これ・・・パンクだ・・・」

クラシック好きな方が聞けば怒られてしまうような言葉かも知れませんが、当時も今も、アルゲリッチ姐さんのこのバッハの演奏を表す言葉は、これしか知りません。

バッハの楽曲が、演奏家泣かせの完璧な構造を持つ”鬼”ならば、それに完全に真正面から挑みかかり、やや前にガッツンガッツン突っかかるようなアクセントでありながら、リズムや流れを一切乱すことなく、美しく狂おしい情感に満ちた右手と、容赦なく鍵盤に叩き付ける左手で、イメージを壮絶に塗り替えてゆくアルゲリッチ姐さんの演奏は、まるで美しい悪魔であります。

例えばピアノを先生に習ってる人がこんな風にガンガンに感情込めて弾いたらきっと怒られるでしょう。当然”習ってるレベル”の人がこんなことをやったら、感情に両手がついていかなくなって、演奏はたちまち破綻してしまうからです。

でも、アルゲリッチの演奏は破綻しません。バッハの時代はピアノがなく、ハープシコードのサスティンのない音で、平坦な演奏に、どうしてもなっていましたが、想像をたくましくすれば、もしもバッハの時代にピアノがあったなら、彼は秘めた感情を、ピアノを使ってこのように表現したかも知れない。そう思わせるぐらいに強靭な説得力がこの演奏にはあります。

それにしても聴く人を引きずり込んで話さない、魔力に溢れた演奏です。





(冒頭を飾るトッカータ ハ短調。これほんとに凄いんです・・・)



”アルゲリッチ”関連記事



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 13:16| Comment(0) | TrackBack(0) | クラシック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月09日

ドビュッシー:海(デュトワ)


4.jpg

海、牧神の午後への前奏曲、夜想曲、遊戯 デュトワ&モントリオール響

(DECCA/ユニバーサル)

やっぱり海に近い所で生活している訳ですから「海」をテーマにした音楽や文学には、どこか本能的に惹かれたりします。それは単純に”海が好きだから”というのとはちと違う、その美しさも壮大さも、或いは恐ろしさも・・・、諸々の芸術というものが、それをどう表現しているのだろう?という、根っこからくる気持ちによります。

「海」がテーマの曲をアタシが聴くときは、単純に「わー、綺麗だねー」というのではなく、作者があの巨大で底なしで、とことん美しく、でも得体の知れない不可思議なものとどれだけ真剣に対峙して、海というものをどれだけ心の目をガッチリ見開いて見ているか?それに尽きる訳です。

で、ドビュッシーの「海」です。

ドビュッシーは近代フランスの作曲家で、先輩格に当たるチャイコフスキーやショパンから、繊細で優美、そして文学的で相当にロマンチックかつドラマチックな作風を受け継いでおり、更にそこにより多くの音階を駆使した技法で、実に抽象的で幻想的な世界を築き上げ、世間的には「音の印象派」とか呼ばれております。

凄い作曲家なんですが、実はコノ人、クラシック以外のジャンル・・・例えばマイルス・デイヴィス以降のモダン・ジャズとか、プログレッシブ・ロックとか、その辺に凄く影響を与えてもおりまして、最近では椎名林檎嬢なんかが「ドビュッシー最高!」とか言ってたのを何かで読んだことありますね。えぇ。。。

それはそうとして、ドビュッシーです。

ピアノ曲が有名なドビュッシーですが(元々ピアニスト志望だったというのもあるからでしょう)、実は交響曲や管弦楽曲など、いわゆるオーケストラ音楽でも優れた作品を残している人なのです。

「海」は、管弦楽曲の最高傑作と評価の高い曲です。が、そのことはアタシは大分後になって知りました(汗)。

「お、この前ピアノもの聴いて良かったドビュッシーだ。しかもタイトルが”海”かぁ・・・何かよくわからんが聴いとこ♪」

ぐらいの軽い気持ちで買った「海」これが実によくわからんかったのですが、実に良かったのですよ。

”わからんかった”というのは、ドビュッシー独特の、掴めそうで掴めない、繊細でめまぐるしい曲展開、”良かった”のは、だからこそのはっきりとした音階や”形”で浮かんでくるのではなく、もっと幻想的な”光”や”影”で脳裏に浮き上がってくるイメージの美しさです。

解説書を読むと「夜明けから日暮れまでの海の移り変わりを描写した楽曲」と書かれておりましたが、ハッキリ言って最初に聴いていきなりそこまでは分かりませんでした。でも、海の、特に海原の”動いてないようで
実は大きく動いている表情”というのは、とてもリアルに音楽で描かれているなと思いました。

その後、ドビュッシーをあれこれ聴いて思うのは「水辺での光の戯れ」という言葉です。ハッキリと捉えられる形はないけれども、そこに何か本質的なものが確かにある。そういう存在を光の乱反射とその反対側にある影で感じさせてくれる音楽。どんなタイトルが付いていようが、ドビュッシーの音楽は本質的に”それ”だと思います。

このアルバムは、他にもバレエ音楽も入ってます。

特に注目なのが、1曲目に収録されている「牧神の午後」。


(牧神の午後)


この曲は、元々バレエ音楽として書かれたものではなかったんだけど、文学界とバレエ界に凄まじいインスピレーションを与え、伝説の天才ダンサー、ヴァーツラフ・ニジンスキーが主演/振り付けでバレエ「牧神の午後」を発表し、その前衛的なパフォーマンスは、賛否両論大いに物議を醸し、その後のバレエの歴史を変えたというエピソードがありますが、そこらへんはアタシがどうこう言うよりも、大リスペクトする山岸凉子先生の漫画で「牧神の午後」という大傑作がありますので、ソチラを読んでください。





ヒジョーにとっちらかった解説ですいませんが、ドビュッシーの「海」という作品、そしてこのアルバムに収録されている楽曲の数々は「音の印象派」というのが、なるほどこういうものなのか!と、ちょいと感性のアンテナが敏感な人にはすごくビンビンくる素晴らしい作品群です。えぇ、それこそジャズやロックが好きな人、音と音との知的で有機的な交感というものに惹かれる人は聴いてみて損はないと思います。




【演奏】
シャルル・デュトワ(指揮)
モントリオール交響合唱団
モントリオール交響楽団

【収録曲】
1.牧神の午後への前奏曲
2.海-3つの交響的スケッチ 第1曲: 海の夜明けから真昼まで
3.海-3つの交響的スケッチ 第2曲: 波の戯れ
4.海-3つの交響的スケッチ 第3曲: 風と海との対話
5.バレエ≪遊戯≫
6.夜想曲 第1曲: 雲
7.夜想曲 第2曲: 祭り
8.夜想曲 第3曲: シレーヌ(海の精)


指揮者はドビュッシーと同じくフランス出身のシャルル・デュトワです。

一時期NHK交響楽団の指揮者で「N響アワー」なんかにもよく出ておりましたので、知っている人は多いと思うんですが、アタシはこの人の事は「どんな音にも抒情を含ませることが出来るおじさん」と呼んでいます。

一見掴みづらいドビュッシーの音楽に、オーケストラを駆使して鮮烈さを保ちつつ、どこか儚げな抒情を演奏に「ふわっ」とコーティングするその指揮ぶりは素敵です。

実はドビュッシーの「海」はもうひとつ、恐ろしいぐらいに透明な美しさを放つピエール・ブーレーズ指揮の名盤もありますが、それはまた別の機会に。。。









『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/
posted by サウンズパル at 19:18| Comment(0) | TrackBack(0) | クラシック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月19日

デュ・プレ 白鳥(チェロ名曲集)

3.jpg

デュ・プレ/白鳥(チェロ名曲集)
(ワーナー・ミュージック)

音楽といえば、ほとんどアタシはガソリンのように耳から心に投入し、落ち込んでいる気持ちを奮い立たせたり、テンションをアゲたりするために聴いています。

でも、全部が全部そんなだとキツい、たとえば魚にとっての水のように

「あって当たり前だけど、ないと生きていけないもの」

として音楽に相対する気持ちを大事にしたいです。


クラシックは、パンク小僧・ロック小僧だったアタシにとっては長年「何か学校で教えられるタイクツな音楽」でしたが、実はそう思っていたのは、ツッパリたい年頃特有のよくあるポーズだったわけで、密かにバッハとかいいなと思って聴いてたりしました。

「いいものはいい」

なんて陳腐をぶっこくつもりは毛頭ございませんが、ロックだろうがブルースだろうがジャズだろうがクラシックだろうが、人間が喜怒哀楽をメロディやリズム、或いは歌詞に託して、魂を注入して作り上げた音楽に変わりはないわけです。

つまり

「カッコイイものはパンク!」

この精神で音楽をどんどん聴いてどんどん感動すれば、ジャンルなんてちっとも怖いものでもややこしいものでもない、ましてや「クラシック=難しい」なんてのはそれこそ20世紀より前の、もうとっくに化石になりつつある考え方なんじゃないかと思っております。

そう思わせてくれたきっかけをアタシにくれたのが、ジャクリーヌ・デュ・プレでした。

何かの雑誌で

「夭折の女性チェリスト」

とか書かれていたものを見て、まぁ似てはおりませんが、何か写真で見たその顔の表情に、何となくジャニス・ジョプリンに通じるものを勝手に感じて、少し気になってたんです。

そんなある日、テレビでたまたま彼女の映像を目にしました。

曲に合わせて体がゆらゆらと、次第に大きく激しく揺れて、その美しいチェロの音に、彼女が揺れるごとにどんどん情念が上乗せされるような、それは衝撃的な映像でした。


「パンクだ・・・」

この表現が適切かどうかはわかりませんが、とにかくアタシはそう思いました。何てことだ、クラシックにあんなに激しい音楽をする人がいたんだ、すげぇや、と一人で勝手に興奮して「ほれみろ、やっぱりジャニスと同じ種類の人だったじゃないか」と勝手に納得したわけです。

彼女の本当の魅力に目覚めたのは、CDを買ってからです。




【演奏】
ジャクリーヌ・デュ・プレ(チェロ)
ジェラルド・ムーア(ピアノ)@〜EI
ロイ・ジェスン(オルガン)F
オージアン・エリス(ハープ)G
ジョン・ウィリアムス(ギター)H

【収録曲】
1.シチリアンヌ(シチリア舞曲)*パラディス
(2〜4:3つの幻想小曲集 作品73)*シューマン
2.T.優しく表情を持って
3.U.快活で、軽やかに
4.V.速くて熱情を持って
5.無言歌 ニ短調 作品109 *メンデルスゾーン
6.エレジー ハ短調 作品24 *フォーレ
7.アダージョ(トッカータ、アダージョとフーガ ハ短調 BWV.564より)*J.S.バッハ
8.白鳥〜《動物の謝肉祭》より *サン=サーンス
9.ホタ〜《スペイン民謡組曲》より *ファリャ
10.コル・ニドライ 作品47 *ブルッフ


これも”たまたま”だったんですが、ある日ふと「そうだ、ジャクリーヌ・デュ・プレってすごかったな」と思い出し、どれでもいいからとCDを適当に選んだんですが、これが大当たり。

映像で見た時に耳に入ってきた彼女のチェロは、もう最初から最後まで激烈な情念の渦で、そういうのを覚悟してましたが、実際に音盤で聴いてみると、そのチェロの音は情念そのままに、より深い優しさや、繊細な感情のつづれおりを見せてくれます。

このアルバムは、メンデルスゾーンとかシューマンとかバッハとか、聴けば「あ、これか!」となる曲もたくさん入ってるし、ピアノでサポートしているジェラルド・ムーアのプレイもとても優しくて、余分なアレンジもないし、聴き易いです。

デュ・プレのチェロの、何というか情熱と慈愛が完全に諸刃状態でひとつの音の中にヒリヒリと溶け込んでいるあの音を聴くと、・・・いや、何度聴いても胸がいっぱいになります。





(本編とは関係ありませんが、ダニエル・バレンボイムとの素敵なセッション)


『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/

BASEショップもありますよ(ここでしか買えない商品アリ)http://soundspal.thebase.in/

posted by サウンズパル at 19:04| Comment(0) | TrackBack(0) | クラシック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年07月02日

ムーンドッグ More Moondog

1.1.jpg

Moondog/More Moondog
(Prestige/OJC)

今日も脱力&脱水でムーンドッグをお届けしております。

「6番街のバイキング」「元祖ミニマリスト」「サン・ラーと並んで宇宙とコンタクト出来る人」とか、まぁムーンドッグに関して色々と知れば知るほど面白い逸話とか、そういうのがたくさん出てきて面白い。そして、彼が残した音楽も、実に自由で奇妙なんだけれども、とても風通しの良い、心地良いものであるんだよと前回の記事で書きました。

彼が活動を始めた1950年代のニューヨークは、それこそジャズマンにビートニク、画家やパフォーマー、その他諸々の前衛芸術家が、街に路上に溢れておりました。人種もそれこそ白人、黒人、中南米、アジア系などなどとにかく様々な人々が入り乱れておりまして、ムーンドッグの音楽には、独特のユルさがありながらもそんな当時のニューヨークの路上の空気感をリアルに感じさせてくれるものでもあるんだなぁと思います。

さて、ニューヨークジャズの名門レーベル”Prestige”は、ムーンドッグの初期の音楽の”そのまんま”を見事にレコーディングして「Moondog」というアルバムを出しましたが、プレステイジには更にラフで”そのまんま”な「More Moondog」という素敵なアルバムが出ております。





【収録曲】
1.Duet: Queen Elizabeth and Bamboo Pipe
2.Conversation and Music at 51st St. And 6th Ave. (New York City)
3.Hardshoe (7/4) Ray Malone
4.Tugboat Toccata
5.Autumn
6.Seven Beat Suite (3 Parts)
7.Oo Solo (6/4)
8.Rehearsal of Violetta's "Barefoot Dance"
9.Oo Solo (2/4)
10.Ostrich Feathers Played on Drum
11.Oboe Round
12.Chant
13.All Is Loneliness
14.Sextet (OO)
15.Fiesta Piano Solo
16.Moondog Monologue
17.Up Broadway
18.Perpetual Motion
19.loving It
20.Improvisation
21.Ray Malone Softshoe
22.Two Quotations in Dialogue
23.5/8 in Two Shades
24.Moondog's Theme
25.In a Doorway
26.Duet
27.Trimbas in Quarters
28.Wildwood
29.Trimbas in Eighths
30.Organ Rounds


いきなり30曲というボリュームにビビりますが、ご安心を。

この時期のムーンドッグの曲はどれも「小唄」と言って良いぐらいの、短くてシンプルな曲ばかりなので、聴いていても全然疲れません。

より”まんま”と書きましたが、このアルバムは1曲目から街の雑踏の音や人の声、動物の鳴き声などが入ってます。そして、前回は自作打楽器にピアノやチェロなどがメインだった演奏も、より自作楽器(パーカッションはもちろん、琴や琵琶みたいな音の出る不思議な楽器も多い)の占める比重が増えて、より無国籍&やさしいカオスのムードがアルバム全体から漂ってきて実にゴキゲンです。

転がるように繰り返されるリフとコード主体のピアノがカッコイイCとか、気持ち良い7拍子がジワジワくるパーカッションのための組曲E、中世ヨーロッパの古学みたいな異世界感がたまんないJなどなど、つくづくこれだけ多彩な楽曲の数々が、一人のアーティストの創り出す世界として、ユルいけれどもキチンとした統一感を持って響くって凄いなぁと思います。

そんなことよりムーンドッグは、夏の何にもしたくない暑気の中でダラダラ聴くのに最高の音楽なんですよ。聴いたことない方はぜひお試しくださいな。人間が優しくなれますよ♪


(動画をサーフィンしてたらこんな楽しそうな映像が♪)


『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/

BASEショップもありますよ(ここでしか買えない商品アリ)http://soundspal.thebase.in/
posted by サウンズパル at 11:58| Comment(0) | TrackBack(0) | クラシック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月29日

ムーンドッグ Moondog(Prestige)

1.1.jpg

MOONDOG
(Prestige/OJC)


今日も暑いので脱力気味でいきます、体が弱っている時は胃腸に優しいものしかお腹に入らなくなると言いますが、耳だってそうです。この読者の皆さんならお分かりかと思いますが、アタシはコッテコテのギトギトな音楽が好きです。

しかし今年は夏バテ本格的にヤバイ感じで「よし、ここはひとつ朝から豪快なブルースで気合いを入れるのだ!」と思ってバディ・ガイかけてみたら、ちょっとヘロヘロになってしまいました。彼の気迫に全然体が追い着けない・・・。

そんなアホな〜・・・とセレクトを変えてみたのですが、ブルース、ロック、ハードなジャズ・・・どれもだめで、本当に泣きそうな気持ちでプレイヤーにセットしてみて「あぁ・・・これだ・・・・」とようやくホッとできたのがムーンドッグのナチュラルにアウトデラックスなユルユルの初期音源集「MOONDOG」でございます。

ムーンドッグは、1940年代からニューヨークの路上を中心に活動していた詩人でありパフォーマーであり、作曲家であり楽器発明家。

北欧神話にインスパイヤされた世界観を持ち、常にバイキングの格好をして路上で演奏や詩の朗読などを行っておりました。

4.jpg

こんなのがいきなり大都会ニューヨークの路上に立ってるんです(!)

見た目で言えばハッキリと変人ではありますが、実は独学で点字を通じて音楽理論を学んでおり(彼は幼い頃に事故に遭い、失明しております)、言動も極めて紳士的で街の人やミュージシャン達から「6番街のヴァイキング」と親しまれて、いわゆる「名物おじさん」的な感じであったようです。

その音楽は、自作の打楽器をチャカポコ叩きながら、まるで童謡のようにシンプルで耳に馴染み易いメロディーを、時にインドや東洋、北欧やアフリカなどの世界の民族音楽から受けた影響を織り交ぜながら、独自のゆったりしたビートとメロディ、時にそれに乗る言葉などが不思議と柔らかな一体感を伴ってユル〜く流れてゆくものであり、スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスといったミニマル・ミュージックの大物達に絶大な影響を与えてもおります。

そんなニューヨークの心優しい吟遊詩人、ムーンドッグが(どういうわけか)ジャズの名門インディーレーベル”PRESTIGE”からリリースした、1956年の脱力作「MOONDOG」これ、本日のオススメでございます。



【収録曲】
1.Caribea
2.Lullaby
3.Tree Trail
4.Death, when you come to me, may you come to me swiftly; I would rather not linger, not linger
5.Big Cat
6.Frog Bog
7.To a Sea Horse
8.Dance Rehearsal
9.Surf Session, in 3 parts, quartet
10.Trees against the sky, fields of plenty, rivers to the sea: this, and more, spreads before me
11.Tap Dance
12.Oo Debu
13.Drum Suite
14.Street Scene


基本。パーカッションが心地良く鳴って(つまりけたたましくない)て、それにピアノやヴァイオリン、曲によってはヴォーカルなんかが入る、ややモンドがかったラウンジ・ミュージックと申しましょうか。

とかくムーンドッグといえば「変人」の代名詞的に、一時期音楽界隈でも採り上げられたことがありましたが、音楽的には一見実にマトモであり、例えばFのピアノなんかを聴けばエリック・サティとゴンザレスが混ざり合う丁度その中間点にあるような、実にセンスのいい、そしてどこか郷愁すら感じさせてくれる(彼の言葉でいえば”神話的音楽”)音は、心のけばだったところにスーッと優しく作用して、気持ちよくほぐしてくれます。

AとCで、いきなり日本語の朗読(Aは赤ちゃんに「かわいいね〜」と語りかける女の人の声で、Cはポエトリー・リーディング。一瞬ボカロかと思ったけど、何で50年代にボカロあんねん!と思って正気に帰りました)が出てきたり、東洋っぽい曲の限りなく無国籍な中華サウンド感なんか、いかにもモンドであり、上質なサイケも感じます。

フツーに心地良いんだけど、よくよく聴いたら実際は色んな意味で”先取り”の多いサウンドであり、確かにムーンドック天才だと思います。いや、でも、このユルユル、純粋にこれが気持ちええんです。。。



『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』

サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログ
http://ameblo.jp/soundspal/

BASEショップもありますよ(ここでしか買えない商品アリ)http://soundspal.thebase.in/
posted by サウンズパル at 19:26| Comment(0) | TrackBack(0) | クラシック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする