ルルーズ・マーブル/ラヴ・ロック(アルファ/VIVID SOUND)
パンクロックをさかのぼっていくと、その源流を60年代の”ガレージロック”と呼ばれる音楽に求める事が出来ます。
ガレージとは何かといえば、ビートルズの大ブレイクに感化された、主にアメリカの少年達が「ロックバンドかっけぇ!オレらもあんなんやるべ、女にモテるべ」と、ドラム買ってエレキギター持って始めたバンドがその頃いっぱいあって、でもいきなりスタジオとかは入れないから、とりあえず自分達の家で練習するんですが、そんなやかましいお前らは家ん中でやるなとご両親に怒られて、じゃあどこでやりゃいいんだと言えば「車のガレージでもやってろこのすっとこどっこい!」と言われ、そういえばそうだなとガレージで遠慮なくでっかい音でやったのがその語源と言われております。
大体ですね、エレキギターを弾く理由なんてのは8割がたストレス解消です。
これはアタシの経験から言いますが、まだロクに弾けもしないのに一生懸命覚えた2つとか3つとか覚えたコードをアンプに繋いでガコーンって鳴らせば、何かもう自分はスターになったような気分になってこれが大変に気持ちが良い。
いつの時代もそんな感じだったんでしょう。ほいでもって60年代から70年代初頭ぐらいまで、多くのガレージバンドがあちこちで生まれ、小さなレコード会社からシングルを出しては消えて行きました。
ガレージロックの素晴らしい所は、何と言ってもそのシンプルな3コードのロックンロールと、調性なんかとりあえず無視の、衝動の赴くままに歪まされた”行き過ぎ””やり過ぎ”の粗削りなサウンドにあります。
強烈なファズギターに何だかボワボワしたベース、バシャバシャとりあえずやかましいドラム。もちろんこれはひとつの典型ではありますが、割と大人しいトーンでポップな演奏をやっていても、どこか音質や音響的に不安定で、やぶれかぶれで突っ走ってるようなあやうさがガレージ
ロックにはあって、それがいわゆる”メジャーなロック”にはない、ならではの味わいだったりする訳です。
70年代は世界的なパンクロックムーヴメントの影響もあり、一時期は下火になったガレージも再評価されました。
んで、その後ちょっと勢いが衰えたとか、80年代は忘れ去られたとか言われておったりしましたが、実は70年代も80年代も90年代も「郊外に住んでるアマチュアバンドはガレージで練習する」という環境は変わらんかったし、ガレージロックというのはインディーズではずっと何かしら新しいバンドも出て来て、ライヴでもそこそこ盛り上がって、その火が完全に消えることはなかったんですね。
そりゃあそのはずです。だってガレージロックには、ロックに必要なシンプルな3コードとみんなが大好きな粗削りな衝動がありのままの形で詰まってる。もっと単純に、ギターを持ったらあんまり弾けなくても何かやりたくなる音楽だし、やれそうでもある、実際やってみたら何か出来てしまうんですから。
はい、そんな訳でアタシはガレージロックというのは、いつまでも廃れることのないロックの原点であり、良心であると思っております。
で、そんなガレージロック、日本でリバイバルの人気が盛り上がったのが1990年代であります。
ニルヴァーナのカート・コバーンがガールズ・バンドの少年ナイフを「最高にクールだぜ」と絶賛し、ギターウルフが地道なライヴ活動の結果海外でまず人気を獲得し、一方では日本でいわゆる”渋谷系”とはまた別の流れから「60年代っていいよね」と見直す動きがあって、国内のライヴハウスでもカッコいいバンドが多く活躍の場を拡げ、またメジャーインディーズ両方からCDをリリースするバンドが結構いて、MAD3とかデキシー・ド・ザエモンズとか、キングブラザーズとか、もうアタシなんかもワクワクでリリースを追っかけたバンド、結構いました。
その中でも異彩を放っていたのがガールズバンドです。
少年ナイフはもちろん、THE 5'6'7'8'Sとか、ママギタァとか、曲はポップだけど演奏はバリバリ気合い入ってて、とにかくこの頃の”ガールズ・ガレージ”といえば演奏もガレージならではのチープさとワイルドさが混在するあの独特の音作りが実に上手いバンドだらけで、驚いたり感動したりで、アタシは非常に忙しかったんですが、その中で特にぶっ飛んだバンドというのが、今日ご紹介するルルーズ・マーブルであります。
97年か98年頃、池袋のサンシャイン近くの、アニメショップとかアダルトショップとか一緒に入ってる古い雑居ビルの3階にあるレコード屋さんが、パンク/ガレージ系が充実したお店だったので、そこはちょくちょく行っては敢えて聴いたことのないようなインディーズの中古CDやレコードを漁っていたんですが、そこでたまたま見付けたのがこの人達のファースト・アルバムでした。
ジャケットはいかにも60年代っぽいポップなフォントと色調のやつで、そこに60年代っぽい恰好をしたお姉さん達が写ってる。
ほうほう、ガールズ・ガレージかね、なんか良さそうと思ってそのお姉さん達の顔を見たら
目付きが悪い、しかも尋常じゃなく悪いんですよ。
それでも「これは期待できるんじゃないか」ぐらいの、まぁ半分ぐらいナメた気持ちで気軽に購入したんですが、出て来たサウンドはファズ全開の割れまくりギター、物凄くラウドでゴリゴリのベースにバシャバシャドスドスのドラム、「ぎゅわ〜んぎゅわ〜ん」と無秩序に鳴り響く狂ってるオルガン。
そのサウンドだけで「はい、すいませんでした」と軽い気持ちで購入したことを謝りたいぐらいの迫力と衝撃だったんですが、本当に凄いのは「キュート?ポップ?バカ言ってんじゃねぇよ」と言わんばかりにがなる、がなる、がなりまくるヴォーカル!
やってる曲はGSとか昔のロックのカヴァーでした、曲調はほとんどいじってなくて結構ポップなはずなんですが、もう声と音だけで何もかも凌駕して有り余るほどの凄まじさで、その凄まじさはといえば、それまでパンクからメタルからオルタナからグランジから、そこそこロックというものを聴いてきて、何か生意気に知った気になっていたアタシの価値観というか「ガレージってこんなだろ?」という思いあがった知識を心地良く粉砕してくれるぐらいのものでありました。
ラヴ・ロック【収録曲】
1.アイ・フィール・オールライト
2.ロードランナー
3.スターニン・ブレッド
4.ヘイ・ダーリン
5.リズム天国
6.キャンディ
7.マイ・ボーイ・フレンズ・ギター
8.月よお願い
9.ラヴ・ロック
10.ウイッチ
11.ジャック・ザ・リッパー
12.ハンキー・パンキー
13.リズム天国(オルタネート・ミックス)
14.月よお願い(オルタネート・ミックス)
15.アイ・フィール・オールライト(オルタネート・ミックス)
16.ハンキー・パンキー(コンプリート・ヴァージョン)
本当にその時の”ルルーズ・マーブル体験”って衝撃で、しばらく他の日本のロックは聴けないぐらいのもので、これはもう間違いなく日本のガールズ・ロックを代表するバンドになるし、海外でも凄く活躍するんじゃないかと思ってました。
しかし、99年にヴォーカルのAKKOがバイク事故で急死。バンドは解散。
その後”LULU”という名で復活はしましたが、やはりAKKOの向こう見ずでドスの効きまくったヴォーカルは、他に類を見ない天才的なものだったし、衝撃という意味でルルーズ・マーブルのインパクトが霞むぐらいのバンドの演奏には、未だに出会っておりません。
「ロックは衝動が全て」という言葉がありまして、でもこの言葉はあんまり簡単には使いたくない、そう思いながらもルルーズ・マーブルのような、たとえばガレージっていうカテゴリすらもガンガンにやっかましいサウンドとがなりまくったヴォーカルでぶっ壊してしまうバンドには、もう惜しみなく使いたいと思います。
ファースト・アルバムは現在入手困難ですので、オススメとして2019年現在まだ比較的入手しやすいサード・アルバムを。
『音のソムリエ 高良俊礼の音楽コラム』サウンズパル店主高良俊礼の個人ブログhttp://ameblo.jp/soundspal/